刃に映るのは

mudan tensai genkin desu -yuki

「剣を教えて欲しい?」
「そうです」
ひょんなことから同居することになった魔女は、俺を見上げて当然のようにそう言ってきた。
って言っても、なんで俺!? 俺ちゃんと「元暗殺者」って言ったよな。
「えーと、剣なら他のやつにちゃんとしたの習った方がよくないか?」
「自分がちゃんとしてない、って自覚があるのはいいですけど、私、力がないですからね。長剣持つのしんどいんですよ」
「あー。そのちっこくて細い体じゃそうかもな」
確かに、ってお前今、さりげなくひどいこと言わなかったか!? 慣れてるから別にいいけどさ!
俺は床を拭きながら、窓掃除しているティナに確認する。
「でも俺の剣って、本当に殺す為のもんだぞ。それでいいのか?」
「構いませんよ。それくらいでなければ力として意味はないでしょう」
「ま、そうだけどよ」
「というわけでお願いします」
お願いしますって言われても、俺、人に剣なんて教えたことないんだけどな。大丈夫かな。
ま、なんとかなるか。
…………
……
なるよな?

人にものを教えるにあたって、自分が習った通りのことをやらせる、っていうのは一つの手段だと思う。
思うけど、俺が受けた訓練をこいつにしたらまず死ぬ。死ぬからな。
というわけで臨機応変にいってみよう。
「体柔らかい。けど力ない、か」
「力はないですね。この体だし。柔らかいんですか?」
「比較的」
家の裏の空き地で、べったりと地面に座って上半身をつけているティナは、首だけを回してこっちを見上げてくる。
うん、柔らかいに越したことはない。あとは速さと精確さか。
多分それくらいあれば非力はカバーできると思う。
「んじゃ、とりあえずやってみるか」
最初は短剣の扱い方と平行して投擲とかやろうか。短剣に慣れてもらいつつ、一人でも練習できるから。
俺は布にくるんだ自分の短剣を地面に並べた。
「ほい、好きなの取れ」
「どう違うんですか。全部同じに見えます」
「全部同じ。だけどま、握りがしっくりくるとかこないとかあるから。最初は選べよ」
「最初は?」
「暗殺者は得物を選ばない。っても、お前は違うから好きにすればいいけど」
俺は元々持ってる一本を手にして、持ち方を示す。
そうして離れたところにある倒木へ、ひょいっと投擲した。
そこには俺が時々気晴らしに使う的が描いてあって、短剣はその中央に突き刺さる。
うーん、これ、自分で抜きに行くのが面倒なんだよな。紐とかつけて引っ張ろうかと考えたこともあるけど、距離が離れすぎてて上手くいかなかった。
仕方なく俺はとぼとぼ短剣を抜きに行って、戻ってくる。
「と、こんな感じで。投擲は精確にできるに越したことはないから」
「……貴方、結構凄いんですね」
「何それ」
お前、俺をなんだと思ってるわけ。
一応これでも人殺しで食ってたんだぞ。今は落ちこぼれの武官だけどな! いつクビにされるかわかんない。
まーそれでも前よりはマシだと思ってるけど。



そっからしばらく色々見てやって、「一人で練習したい」って言われたから俺は家に戻った。
夕飯は既に作ってあったから、自分でそれあっためて食べて、さあ寝るかって時間になってもあいつは練習してるみたいで。
なんつか……色々あるんだろうな。努力家だと思うけど、それだけじゃないってのは分かる。
分かるけど、そういうのに触れないのも同居人の配慮だと思うからな。
とりあえず俺は真夜中になって、疲れて外で眠ってるあいつを回収しにいった。
よく寝てるからそーっと抱き上げようとしたのに、なんか爆発したんだけど!
比喩じゃなくて本当に俺が吹っ飛んだ! 意味分からん!
ともかくお前はもうちょっと自分の体気遣えよ! あと俺を意味なく吹っ飛ばすな!