はぐれ者

mudan tensai genkin desu -yuki

金をもらえば動く人種―――― それが傭兵だと世間では思われている。
この荒れた大陸において、戦いを居場所としたならず者たち。
だから彼らは、しばしば使い捨てのように扱われ、だが中には金で動かない者もいる。
そういった者たちは得てして腕の立つ者であることが多い。
彼らは、戦火の中を生き抜くための独特の嗅覚を持っているからだ。

「いや、やらない」
まだ若い傭兵にきっぱりと断られ、商人の男は鼻白んだ。
他の客のいない酒場で、十代半ばに見えるその傭兵は、干し肉をかじりながら手を振る。
「よそあたれよ。もう少しすりゃ誰か来るだろ」
彼の言う通り、昼から酒場にいる傭兵はそう多くはない。
最近は、余所で大きな戦があってそちらに人が取られているから尚更だ。
だからこそ商人の男も、半人前にしか見えない傭兵に声をかけたのだが、すげなく断られてしまった。
納得出来ずに男は食い下がる。
「何故だ? 報酬は悪くないだろう」
「悪くないけどやりたくない。金の問題じゃない」
「だが……」
「―――― どうした、アージェ」
新たな声が響き、商人の男はあわてて振り返った。
酒場の入口に新たな傭兵の姿が現れる。
アージェと呼ばれた青年より十は年上に見える男は、二人に近づくなり納得の顔になる。商人の肩をぽんと叩いた。
「悪いな。こいつ仕事変な選び方すんだよ。よそあたってくれ」
「よそって言ったって……別にたいした仕事じゃないんだ。荷運びの護衛ってだけで。危険もないし」
「危険がない仕事なら別のやつが喜んでやるだろ」
そっけない態度の青年は、そう言って背を向ける。
これ以上話を聞く気はないのだろう。商人の男は小さな溜息をつくと、黙って酒場を後にした。

二人きりになると、ケグスは椅子を引いてアージェの隣に座る。
「で、何が気に食わなかったんだ?」
「傭兵やってて、危険のない仕事って馬鹿馬鹿しいだろ」
「そりゃそうだな」
軽く笑い飛ばして、ケグスは酒を注文した。
―――― 彼の弟子である青年は、傭兵になった経緯のせいか、安穏を嫌う。
まるでそうして戦わずに過ごす時間が、忌むべき堕落であるかのように、毛嫌いして遠ざかるのだ。
それを人は「生き急いでいる」というのかもしれないが、厳密には違うとケグスは思っている。
アージェは単に「弱いままでいること」が厭なのだ。
「たまにはああいう仕事でもいいだろ。ずっと気を張ってると、かえって麻痺してまともな判断ができなくなる」
「そうかもしれないけどさ」
「ま、好きにしろ。お前のことだ」
説教は柄ではない。
言わずとも、アージェは分かっているだろう。分かっていて、だがその道を選べないのは人の性だ。
だからケグスは死者の名を出さずに笑った。
「好きにすりゃいいけどな、危ない橋ばかり渡って手っ取り早く経験積もうなんて甘いぞ。純粋に場数が物を言うことだってある」
「……ああ」
劇的な経験が、必ずしも人を成長させるわけではない。
そんなものより地道な積み重ねが実力に繋がることもある。
ケグスは自分の前に酒が運ばれてくると、琥珀色のグラスを手に取った。
人の魂を溶かしたかのような色に、数多の人生が重なって見える。
口にしたその味は、焼けつくほどに苦かった。

それきりアージェは言葉少なに帰っていったが、翌日新たな仕事を受けて戻ってきた。
町外れの農夫から引き受けてきたという仕事は、「蜂蜜取りの手伝い」で、元々器用な青年にはまた一つ変わった特技が出来たという。
蜂蜜をもらったケグスは弟子に「そういう意味じゃない」と釘を刺した。