指名手配

mudan tensai genkin desu -yuki

「貴方って、元の仲間から追手とかかからないんですか」
同居人の猫がそんなことを突然聞いてきたのは、同居人としてやはり気になることだからかもしれない。
窓辺に座って外を見ているティナに、俺はちょっと考えて返した。
「多分かからない。だって俺、顔割れてないし」
「……まさか、四六時中その覆面だったんですか」
「そうだよ」
事実を肯定すると、ティナは愕然とした顔で俺を見る。
なんだその顔……まるで俺の存在が信じられないみたいな、生きていることを憐れむみたいな。
そんな目で見られる筋合いはないぞ。っていうか、お前も似たようなもんだろ。
「なんでそんなこと聞くんだよ。お前だって魔女なんだから、追手とかかかるんじゃないのか?」
「かかりませんよ」
「あれ意外」
「私のが強いですし。かかっても殺します。命の無駄遣いです」
「はっきり言い過ぎだろ!?」
なんだこいつ恐い。知ってたけど恐い。俺も人のこと言えないけど。
俺は覆面をぬいで、下の髪をかき回した。
「お前みたいのはともかく、俺の方は一暗殺者にそこまでの労力はかけられないってのが現実だからな。依頼もただ標的だけ指定されるだけで、それ以外の事情は俺たちのところまでは知らされない。単なる道具だ」
だからって何が軽減されるわけでもないけど、追いかけて口封じするほどの価値もないってわけ。
そんな俺の話に、ティナは「ふぅん」と気のない相槌を打った。
「だったらいいんですが」
「なんかよくないことでもあるのか?」
「いえ、たださっきから不審者がこっちを見てるので」
「は?」
何だそれ。もっと早く言えよ。ってかすごく今までの話要らなかっただろ。
俺はティナの隣から指し示された方を覗きこんだ。
確かに三軒先くらいの先の角から誰かがこっちを見てる。なんだろ、覚えのない顔だな。
明らかにこっちも見返しているのに向こうの反応がないのは、ティナが魔法で見えなくしてるか何かだろう。
その誰かは、特徴のない顔をした若い男で服装も平凡だ。でもあれは――
「堅気じゃないっぽいな」
「だから貴方の追手かと思ったんですが」
「やめて。自信なくなっちゃうだろ」
えー、追手がかかったのかなあ。でもあいつ、多分俺より弱いぞ。うーん。
俺はちょっと悩んで……
「とりあえず捕まえてくる」
「いってらっしゃいませ」
あっさりとした挨拶はいつものことだ。窓辺から動く気のないティナをおいて、俺は裏口から出ていく。
そうしてぐるっと回って問題の男を後ろから捕まえた俺は、そいつがうちを見ていた単純な理由を聞きだした。

「お前を探してたんだってよ」
「なんですか、それ」
ティナは床に転がされた男を眉を顰めて見やる。
気絶させてある男は、どっかの兵士崩れなんだと。で、好みのタイプは十三歳以下の女の子。
ティナは滅多に外に出ないけど、洗濯もの干してるところをたまたま見かけて、家に押し入れないかと思ってたんだと。こいつやばい。
それを聞いたティナは、綺麗な顔をますます顰める。もう憤怒どころじゃないな。何これ恐い。
実年齢二十六歳の魔女は、ようやく窓辺から立ち上がると男を見下した。白い手を頭に伸ばす。
「じゃあ、ちょっと消しますね」
「殺す決断早すぎないか!?」
「殺しません。人格破壊します」
「ちょっとマシになったけどそれもどうかと!」
「うるさいですね。なんか適当にいい感じにして捨ててきますよ。余所で実害出されても困りますし」
「ぐぐ」
悪い。これは止められない。こいつもうちに押し入る機会を狙ってたんだから、しょうがないよな。
そうして俺は、犯罪者未満が魔女に魔法の枷をかけられ捨てられるまでを、黙って見てたのでした。

「ところでティナ、俺狙ってきたやつなら俺が後始末するから。放置しとけよ」
「私の視界に入る前なら。善処します」