珍品収集

mudan tensai genkin desu -yuki

女皇の私室には、小さな硝子戸棚が置かれている。
私物の少ない彼女が、ほんの僅か大切なものだけを収める為に選んだ戸棚。そこに並べられているものは、高価な飾りものから、ありふれた細工まで様々だ。統一性の見られない陳列物だが、全て持ち主である女皇の特別な、思い出の品々である。
家具を少し動かしたいからとのことで、女官たちに請われて主君の部屋に入ったアージェは、硝子戸棚の中に目を留めた。
そこにかつて自分が子供だった頃、彼女に贈った硝子細工を見つけて思案顔になる。

「アージェ、これ何?」
「お土産です」
執務机に並べられたものには、それぞれまったく共通点が見られなかった。
高価な紅水晶をあしらった髪留め、布張りの可愛らしい小物入れ、木彫りの小さな鳥と、不揃いな形の飴。
全て彼が休みの日に街へ出て買いそろえたものだ。レアリアはそれを一つずつ手に取っていく。
鳥の置物を目の上にかざして、女皇は顔をほころばせた。
「可愛い。―――― でも急にどうして?」
「特に理由はありません。ただもう最近では、陛下も城を抜け出すことは出来ないでしょうから。その代わりに」
言われたレアリアは少し頬を赤らめる。
昔、少女だった彼女が頻繁に城を抜け出していたのは、友人のアージェに会う為だったのだ。
その彼が城にいる今、レアリアは外へ出て行ったりはしない。今はむしろ執務で忙しい為、外へ自由に出られるようになっても行かないだろう。
世間知らずな女皇は、彼に教えられて飴のくるみ紙をもたもたとはずすと、それを口に入れた。
「ありがとう、アージェ。後で御礼をするわ」
「お気遣いなく」
その日から、レアリアの硝子棚に新たな陳列物が加わった。



木彫りの鳥、素焼きの鳩笛、白鳥の色硝子、と重ねられる贈り物に、疑問を呈したのは貰っている本人ではなく、その臣下の方だ。
綺麗に包まれた小箱を、店の主人から受け取るアージェを見て、エヴェンは疑問の声を上げる。
「な、お前、陛下になんでそんな贈り物さしあげてんだ」
「喜ぶから」
端的な答は、そうとしか言いようがない。アージェが街に出た際に何かを買って帰ると、レアリアはそれを受け取って喜ぶ。
だから次をあげたくなるのだ。もっともこの繰り返しには、いささかの問題も含まれていたが。
エヴェンは、アージェと連れ立って店を出ながら、商品窓を振り返った。
「にしてもなんで、鳥の飴細工なんだよ。それ普通、子供にやるもんじゃないか?」
「ネタがなくなってきたんだよ」
「なんだネタって」
―――― そもそも最初は、ちょっとした矜持の問題だったのだ。
自分のことも彼女のこともろくに知らなかった頃、安い髪飾りをレアリアに贈ったことがある。
それがまるで宝石のように女皇の私室に飾られているのを見て、アージェは、今ならもっときちんとしたものが贈れるのにと思ったのだ。
だから、女たちが喜ぶという高価な装身具と妹に贈るような小箱―――― そして、レアリアが好きだという鳥を形どったものを選んだ。
どれが喜ばれるのだろうと見てみれば、彼女が一番嬉しそうにしたのはやはり鳥の置物である。
それからアージェは、鳥の意匠を使ったものを探すようになった。
「そろそろ次は鶏の丸焼きになるかもしれない……」
「いやお前、マジやめろよな。意味不明にも程があるぞ」
「あと、お礼とか言ってどんどん子犬の刺繍を入れられるのが困る」
「困るなら断れよ。お前の服全部子犬にされるぞ」
そうは言われても、やめ時が見つからないのだから仕方ない。
アージェは次は何を贈ろうか真剣に考えて―――― けれど慌しくなっていく情勢に、いつしかその習慣はなくなってしまった。






「アージェ、おかえりなさい」
「ん。これお土産」
言いながら夫である青年が差し出したものは、鳥の小さな布細工だ。
レアリアが礼を言って受け取る前に、彼女が抱いている幼い息子が両手を伸ばしてそれを取る。
嬉しそうな声を上げて鳥をかかげる息子に、レアリアはころころと笑った。
「ありがとう。お礼は後で」
「刺繍は要らない」
間髪おかずの返答に、レアリアは笑顔のまま一呼吸おいた。
「なんで?」
「子犬は要らない」
「じゃああなたの分は普通の犬にするわ。この子の分は子犬に。これで見分けがつくでしょう?」
「大きさ全然違うし……見分け元々つくし……」
「いいから。剣を置いて手を洗ってきて」
表面上は楽しそうに厨房へ向かう妻を見て、アージェは深い溜息をつく。
この家において犬の刺繍が入っていない彼の私物は、とうとうなくなりそうだった。