兄弟仁義

mudan tensai genkin desu -yuki

腹違いの兄と共に外出することは、そうあることではない。
それは彼らが特殊な血を継ぐ異能者であり、城になくてはならない存在であるからだ。
常に女皇の傍にいるべき騎士―――― とはいえ、その立場には象徴的な側面も多く、外出しようと思えば出来ることもある。
そうして兄と共に、城下で買い物をしたミルザが感じたものは「来てよかった」と「来なければよかった」の複雑な混合だった。
道を行きながら振り返って、出てきたばかりの店を見た彼女は、店番をしていた女が外にまで出て手を振っているのを確認する。
「……兄」
「なんだよ」
「どうして無駄に好かれるようなことをするのだ」
「は?」
眉を顰める青年の顔立ちは、悪くはないと思うのだが、家族の欲目が入っているかもしれない。
少なくとも造作だけで言うならエヴェンの方がずっと整っている。
だが兄も剣の腕はかなりのもので、性格はよくもないが悪くもない。優しいところもある。
総じて考えるなら、女皇の騎士という立場もあいまって女性受けはいい方、になるのかもしれない。
―――― と自分を納得させようとして、だがミルザは己に突っこんだ。
「いや、なんか違う……そもそもディアドだと割れてない……」
「なんだよ。どうした」
「どうして無駄に好かれるようなことをするのだ!」
同じところへと戻ってきた問いに、アージェは「なんのことだよ。別にしてない」と簡潔に答えた。
ということはつまり、無自覚でやっているのだろう。
店の少女や女たちに優しくして、その気を引くということを。
ここに至るまでに、彼の妹ということで数人からの懐柔を受けたミルザは、地団太を踏む。
「兄はどうしてその無駄を陛下に向けようとしないのだ!」
「いやお前、本当意味不明。無駄を陛下に向けてどうするんだよ。失礼だろ」
「無駄にはよい無駄と悪い無駄があって!」
「よい無駄なのか」
「悪い無駄だ!」
「どっちだよ」
おそらく兄は、主君からの好意にまったく気づいていないところからして、こういった機微に鈍感なたちなのだろう。
だから女たちから向けられる期待のまなざしにも気づかない。けれどそれは、もう少し勘違いが重ねれば呆気なく決壊するようなものだ。
ミルザは傭兵時代の兄が何をしていたか、途端に不安になって青ざめる。
「兄……まさか何処かに子供とか作っていないだろうな……」
「何、急に言い出してるんだ。抓るぞ」
「押しかけ女房とかいなかったか!」
「頭大丈夫か?」
「万が一の時は私も一緒に陛下にお詫びしてやる。正直に言った方がいいぞ……」
「な、そろそろ俺、怒ってもいいか?」

心配に心配を重ねて不安になったミルザは「今後女に親切にするな!」と忠告した上、「出来るだけ街に出る時は私を呼べ!」と兄に念を押した。
それでもすっきりとしない気分の彼女は、部屋に帰ると買ってもらった菓子をやけ食いする。
後で「さっぱり意味不明」とエヴェンに愚痴ったアージェは、「お前の頭が意味不明」と怒られた。