真打ち

mudan tensai genkin desu -yuki

ケレスメンティアにおいて、城付きの騎士たちの日常は実に様々である。
一日訓練場に詰めて剣を振るっている者から、神殿に足茂く通っている者、指揮の勉強や要人の警護の為城内で動いている者など、あげだせばきりがない。
その中で二人とも騎士である若い兄妹は、お互いほとんど出会うこともない生活を送っていた。
何故なら兄は女皇に仕えるディアドであり、妹は名家の一人娘だ。どちらも騎士としては異端児であり、普通の騎士の枠内には収まらない。
だが彼らそれぞれは、どちらも己の剣に磨きをかけたいと思っており、時間こそ不定ではあったが、よく訓練場に顔を出していた。
薄ら寒い曇りの日、己の剣を手に城内の訓練場にやってきたミルザは、他の騎士たちに声をかける。
「誰か相手をしてくれ。手合わせをしたい」
「構わないが、今日はディアドはいないのか?」
「兄の予定など知らん。陛下についているのだろう」
そうでなければ困る。ディアドとしては色々破天荒な兄は、よく失言して暇を出されているのだが、毎度毎度そうだとは思いたくない。つつがなく役目を果たしている日もあっていいはずだ。
そこまで口にした訳ではないが、顔なじみの騎士は彼の不在に納得したらしい。練習用の剣を二振り取ると、片方をミルザに鞘ごと放った。
少女は礼を言ってそれを受け取ると、剣を構える。



最初に新たなディアド候補の話を聞いた時、野で育った人間など大したこともないだろうと思っていた。
その時ミルザはまだ相手を兄だとは知らなかったが、知っていたなら一層憤っていたかもしれない。どうして今まで女皇を放っておいたのかと、怒鳴りつけたかもしれないだろう。
だが彼女は何も知らず兄に対面して―――― ごく普通に叩きのめされた。
どうしてあんな滅茶苦茶な相手に、と思ったものだが、傭兵として経験を積んできた彼には彼なりの戦い方があるのだ。
それ以降、たまに訓練場などで兄に出くわすと、ミルザは彼の戦い方を真剣に観察するようになった。



相手の剣を受けた剣を軽く捻る。
それはあわよくば敵の得物を巻き込んで落とそうという意図を持っていたが、相手も用心してか強い力で払ってきた。
ミルザは生まれた隙に、相手の足を蹴ろうと踏み込む。しかしその足は空を切って、彼女は後ろに転びそうになった。すれすれのところで横にながれた刃を避けた少女は、そのまま尻餅をつく。それを合図として、相手の騎士は剣を収めた。
「ミルザ、弱くなってないか?」
「なんだと!?」
心外な言葉に彼女は飛び上がる。
「そんなはずはない、私は色々研究して……」
「いやでも変になってるし」
「変とか言うな!」
間違いなくこれで強くなるはずなのだ。―――― 何故なら彼女の兄は、こういう戦い方で、ケレスメンティアの騎士たちを次々下していっているので。

その旨を訴えようとしたミルザは、しかし後ろから頭をぽんと叩かれ振り返った。そこにはディアドである兄がいて、眉を寄せて少女を見下ろしている。
「お前、腹痛にでもなってるのか?」
「なってないが……何故」
「いや、変な動きしてるから。薬やってるやつみたいな」
「…………」
当の本人に言われた。どうしていいのか分からない。
無言で立ち尽くす妹を、アージェは遠慮なく押し退ける。
「調子悪いならどいとけよ。俺も訓練したい」
「いやだから調子悪くは……」
「前もっとちゃんと動けてただろ。どうしてそうなった」
「……兄こそどうしてこのような時間にここにいるのだ」
「陛下が『今日はもういい』と仰った」
「っ、今度はまた何を言ったのだ!?」
掴みかかろうとする妹を、アージェは片手だけであっさりあしらうと、反応に困っている騎士に「俺の相手して」と要請する。
仕方なく脇に下がったミルザは兄が楽々相手を下すのを見て、「何が違うのか」と散々首を捻ることになったのだった。
アージェからは「本当変な動きだった」と駄目押しされた。