大脱出

mudan tensai genkin desu -yuki

最近、家の警備が厳しい。
具体的には全ての窓に内側からガムテープが貼られている。
これは一体どういうことなのだ。ヨーコ! ヨーコ! ガムテープが侵略してきたぞ!
わたしは断固この支配に抗わねばならない! てい。ていてい。
「……君があまりにも脱走するから、葉子は厳戒態勢を敷いているんだよ」
体制との戦いは始まったばかりだ! えい! やあ! 毛玉の話は都合が悪いから聞こえない!
ガムテープはまったくびくともしないぞ!

聞けば世の中には「猫は飼い猫で一生を室内で暮らすのが幸せなのよ」なんて言う人間がいるらしい。
ええ、そうですか。そうかもしれませんね。だがわたしは外に出たいぞ!
外猫になりたいというわけではない。ただお外はロマンなのだ!
たまに野良猫が尻尾を立てて窓の外を横切っていくことがあるが、あの時のドヤ顔! あー、思い出すとイライラする!
というわけでわたしは何としてもお外に出るぞ! 出るったら出るんだ! 次は二階だ!
ずだだだだだと音を立ててわたしは階段を上っていく。
まずはヨーコの部屋からだ!
あ……鍵からして開いてない。次だ次。
「二階の窓は基本開いてないよ」
いつの間についてきた毛玉! 現実的な指摘なんて聞きたくないぞ!
わたしは何としても外に出るんだ、って、あ、トイレのドアが開いてる。
これはとてもラッキーなことですね……。普段このドアは絶対閉まってるからな。わたしは細い隙間からささっと中に入った。
閉まっている蓋を踏み台にしてジャンプ! 窓辺に飛び乗る。
そして換気のため猫幅になっている網戸に向かい……って、あれ。
「そこの網戸、随分前からガムテープが貼られているね」
「…………」
ヨーコ、ひどい。

猫心の分かっていない飼い主も困るが、分かりすぎる飼い主も困る。
どうしてこうわたしの考えていることは先回りされるのだ! 隙がないぞ、ヨーコ!
わたしはやり場のない怒りを込めて、網戸へと頭突きする。えい。えい。この鬱憤をわたしは網戸へぶつけるぞ!
爪とぎもしてやる。ばりばりだ! ばりばりばりー!
「…………ちょっと」
「うるさいぞ!」
集中が乱れるだろう毛玉! このわたしの迸る熱き思いをなんと心得るのだ!
もっとばりばりだ! もっともっと!
「…………おーい」
聞こえない! ばりばりばりー ―――― って、あれ?
わたしはじっと自分の爪を見て、もう一度網戸を見る。
風雨に曝されぼろっちくなっていたそこには、いつの間にか小さな穴が開いていて…………え、ってこれ、今わたしが開けたのか?
やったー! これで脱走できるぞ!
「あーあ、知らないからね」
知らないはこっちの台詞だ。お前が通れる程の穴なんて開けてやらないからな。
いざゆかん! 自由の空へ!



ええと、結論から言うと、屋根から下へ下りられませんでした。
それで屋根の上に縮こまっているところをヨーコに見つかって、もうとっても怒られました。網戸張替えって怒られました。
なんだかこう、わりにあわないというか、なんというか……。
とりあえず「だから言ったのに」って言った、毛玉! 逆恨みしてやるからな!
寝てるうちにこっそり背中かき回して毛玉作ってやる!