この世のものではないもの

mudan tensai genkin desu -yuki

ヨーコはテレビが好きだ。
セートサンがいない時は、コタツに入ってテレビを見ていることが多い。
だからそんな時はわたしも、ヨーコの膝の上に座ってテレビを見る。
しかしそれにしても、今日のアニメは怖い。怖いぞヨーコ。く、首が! 首があああ!

そんな感じで、今日は寝付けないのだ。決して昼間寝すぎたからではないのだ。ええい、毛玉。一人だけくーくー寝るな。えい!
「……蹴らないでくれるかな。眠い」
「わたしが寝れないのに、お前が寝るのはおかしい!」
「おかしくないよ……」
毛玉は、くあ、と欠伸をする。うわ、怖い。お前どこまで口が開くんだ。妖怪口おばけか。
わたしが慄いていると、毛玉は残酷にも指摘してきた。
「君もあくびすると顔が口だけになるよ」
おばけはわたしだったのか!

おばけの正体はともかくとして、非常に落ち着かないことは確かだ。
わたしはヨーコの部屋と廊下の毛玉と迷って、廊下の毛玉ベッドで寝ることにした。
ヨーコのベッドはふかふかなのだが、大体一晩に三回くらいヨーコに蹴られる。蹴られるのは慣れているが、その度に寝るポジションを見つけて移動しなおさなければならないのが面倒くさい。要するに寝ポジ維持が大変なのだ。
その点毛玉は一度寝ポジに入ったら朝まで動かない。ベッドとしては安泰だ。
わたしは毛玉の腹のふかふかしたところに陣取って目を閉じる。
こわくないこわくない……びくっ!
「い、今、ばさばさ、って音がしたぞ!」
「したね。羽音みたいな」
「く、首が! 首が飛んでるんだ!」
「首に羽はないよ」
冷静なつっこみとかいらないぞ、毛玉! ともかく、何かがばさばさしているのだ! 見に行って来い!
「君が見に行きなよ……眠いし……」
「何言ってるんだ、毛玉! ばさばさ音がするよ! 首が飛んでる!」
「飛んでないって言ってるだろ……いい加減葉子が起きる」
わたしの激しい要請に、毛玉は重い腰をようやく上げる。
そうしてのっそのっそと廊下を歩いて行って―――― 吹き抜けを見上げた。後からそろそろとついてきているわたしの耳に、ぽつりとした呟きが聞こえる。
「……コウモリがいる」
「きゅ、吸血鬼!」
「違うよ。ただの家コウモリだよ」
ただの、ってなんだ! コウモリはみんな吸血鬼なんだぞ!

―――― は、ということは、ヨーコが危ない!
恐怖のあまりじたばたしていたわたしだが、我に返ると全身の毛を逆立てて戦闘態勢に入った。背を丸く屈め、尻尾をふくらませる!
「シャーとかうるさいよ。葉子が起きる」
「わ、わたしは吸血鬼と戦うぞ!」
「はいはい。怖いなら後ろで見てればいいよ」
「こ、怖くなどないぞ!」
足がぷるぷるしているのは、シャーって言ってるからだ! シャー震いだ!
一方、眠そうな毛玉はシャーって言ってる私を無視して吹き抜けに面した手すりに飛び乗った。ばたばたと飛んでいるコウモリを待って―――― べしっと叩き落とす。
うわあああ、毛玉すごい。どうなったんだ。
びくびくしながら私が吹き抜けを覗きに行くと、黒い塊が玄関に落ちている。毛玉がまた、くあ、と欠伸をした。
「じゃあ、僕は寝るから……」
「あ、あれはどうするんだ! 置いて寝るのか!」
「多分死んでると思うよ」
「本当か!? ちゃんと確かめてないぞ! 本当なのか!?」
「気になるなら君が見てきなよ。あとあんまり騒ぐと葉子が起きる」
「だってだって!」
生きているかもしれないけど、見に行きたくもない!
わたしはじたじたと暴れたが、毛玉はさっさと廊下で丸くなってしまった。くそう、なんて毛玉だ。ひどい。鬼。
「わ、わたしも寝るぞ……」
「そうするといいよ。朝寝坊したくなければね」
「うるさい毛玉。わたしは好きなだけ寝るんだ」
だって別にお寝坊したって、ごはんはもらえるものね!

そう思っていたわたしは、けど次の日の朝ヨーコの悲鳴で起こされたのだった。
毛玉が「しまった。死体残したままだった」とか言ってた。つめが甘いぞ、毛玉!