夜明け

mudan tensai genkin desu -yuki

少しずつ暗闇を押しのけていく光に、俺はしょぼしょぼになった目をまたたかせた。
うー、眠い。昔は徹夜とか平気だったんだけど、最近きついな。年取ったか。
高い木の枝に座って先の草原を見張ってる俺は、あくびを噛み殺す。隣では尻尾を丸めた黒猫が眠ってた。ってかティナ、よく落ちないなお前。
ま、こんなところにまで連れてきて付き合ってもらっている以上、あんまり何も言えないんですが。
誰だよ「ルーなら大丈夫」とか言って変な任務振ったやつ! 俺は面倒係じゃないっつの!

今回俺に任せられた仕事は、人買いの殲滅と人質の救出。
どうやらこの近辺の村から女子供を攫って余所の国に売り払ってるやつらがいるんだと。
その手の話って実際珍しくもないんだけど、今回はどうやら子供の死人が出たらしい。それでうちの怖い王女が「人買いを全員殺して来い」と命令したわけだ。その全殺し任務を俺一人に振ってくんのも頭おかしいけどな! これで俺が死んだらどうすんの。

殿下からの情報で、この草原を奴らが移動するって聞いた俺は、そういうわけで夜中からここを見張ってるわけです。
夜目はきくし、多人数相手しやすいから夜来てくれた方がよかったんだけど、朝になってしまった。これで来なかったらどうしよう。
そんなことを考えていると、草原に面した森から小さな人影が走り出てくる。
「お、来たか」
ってあれ、子供か? 人違いか?
目を凝らしてよく確かめようとすると、森からもう一人影が出てきた。こっちは大人の男っぽくて、草原を走る子供を追いかけていくと、その襟首を捕まえる。そして―――― 何の躊躇いもなく子供を殴り倒した。
「……なんだありゃ」
思わず呟いちゃったけど、考えるまでもないよな。人買いが逃げ出した子供を捕まえたんだろ。
その証拠に男は襤褸切れでも引きずるように、子供の肩を掴んで戻ってく。それを迎えるように森の中からはぞろぞろと人影が出てきた。
子供も大人も混ざってる影は……二十くらいか? 捕まってる奴ら抜いてもなんとかなりそうだな。
俺はやつらを見ながら横に手を伸ばした。
「起きろ、ティナ」
猫を揺すり起こすつもりだった俺の手は、けど軽く払われた。ぎょっとして横を見ると、いつの間にかそこには人の姿に戻ったティナが枝に座ってる。
夜の闇と同じ色の目が、墓場みたいな温度で人買いたちを見てた。ティナは細く長く息を吐く。
「……全員殺していいって話でしたよね」
「そうだけどお前は」
「行きます」
最後まで聞けええええええ!
高さを気にせず飛び降りたあいつは、草原を行く一行に向かって走っていく。って正面からか! ちょ、待て、俺も行く!
空が明るくなってるからか、敵はすぐティナに気づいた。なんか口笛とか吹いてるけど、そいつの外見に騙されてると首が飛ぶぞ。―――― って、あ、額に短剣投げられてるな。
最初の男が倒れると同時に、他の奴らは剣を抜く。その時には既にティナは、双剣を振るって奴らの中に飛び込んでた。
どんだけ血の気多いんだお前! 俺は細い短剣を投擲すると、腰から厚刃の短剣を抜きなおす。そのままティナに気を取られてる一人の眼前に飛び込むと、その喉を切り裂いた。鮮血が朝日に照らされた草を濡らす。
「なんだお前らは!」
と聞かれても。それに答える言葉はない。
聞いても意味ないだろ。お前らすぐ死ぬんだし。仕方ないよな。






結局、猫が暴れてたおかげでそう苦労せず殲滅できた。
子供たちを集めて眠らせて記憶操作してたらしい魔女は、一息つくと口を手で覆ってあくびする。
「じゃ、私帰りますから、あとよろしく」
「俺一人!?」
「もう朝ですし、誰か来ますよ。私は家で寝なおすんで」
そう言って止める間もなくティナの姿は消えちゃった。おおおおい! 相変わらず薄情者め!

……ま、本当に薄情ならあんなに怒ったりしないんだろうけどな。
魔女ってみんなから恐れられてるけど、俺はただの変な奴と思ってる。