暗殺計画

mudan tensai genkin desu -yuki

雨が続く日は、気分もじめっとしてくる。
じめって外に出たくなくなるんだよな。城行っても外で体動かすとか出来ないし。
というわけで、詰め所の窓からぼーっと水溜まり見てたら暴力王女に呼び出されました。
呼び出されて変な仕事仰せつかった。つまり――――

「誰が暗殺者か見抜いて来い?」
「そういうこと」
一旦家に帰って任務について説明すると、窓辺でごろごろしていたティナは怪訝そうな顔になった。「意味が分かりませんね」と率直な感想を返してくる。っていうか率直すぎだろ、お前。いいか、順を追ってちゃんと説明するからな。
「いやなんか西方領の領主のところに暗殺者が送り込まれたらしいんだと。その計画書を殿下は別口で手に入れたけど、誰が暗殺者か分からない」
「で、貴方がその判断を任されたと。わくわくですね」
「棒読みすんな。そんなの分かんないからな!」
「えー? 元同業者のよしみとかで分からないんですか?」
「分かるか」
お前もそういう無茶ぶりしてくるのか。
話だとその暗殺者は、今度の祭りの招待客として紛れ込んでるらしいけど、そういうの俺とはタイプ違う暗殺者だから!
姿見せて演技しながら標的に近づくとか出来ない。絶対無理!
そう主張したら、ティナはどうでもいいように返してくる。
「じゃあもう、全員叩きのめせばいいじゃないですか。いい反撃してくる人がいたら、その人が暗殺者ですよ」
「それ、間違って殴った人間はどうなるんだよ」
「死ななきゃいいんじゃないですか?」
他人事臭溢れる返事だな! それやったら俺への罰も膨れあがるから! 俺が死ぬ!
だからこう、お前になんかいい手段がないか聞いてるんですよ。
「魔法で心読んだりとか出来ないのか?」
「ええ? 出来なくもないですけど条件が厳しいですし、大雑把なことしか分かりませんよ」
「大雑把ってどれくらいだ」
「今食べたいものが分かるくらいですね。あなただとネギですか」
「それ分かっても意味ないし、俺はネギが嫌いだ」
全然駄目じゃん。ちょっと期待したのに。
ティナは口を手で押さえて欠伸をする。
「ま、案外行ってみれば分かったりするものですよ。なんだかんだいって元同業ですからね。自分だったらどうするか考えてみればいいです」
「と、言われても」
お前も殿下と似たようなこと言うのな。自分だったどうするか考えろ、って。
でも暗殺者って基本、つるんで動かないから! 他の奴らがどうしてるのかとは分からない!
そう思いながらも仕方なく俺は、城からの派遣ということで問題の祭りに出かけた。
人が本当多かった。多くてまともに出られなかった。挨拶だけして人気のない廊下とかに張り付いていた。
そうやってこっそり影にいたら、不審な動きをする人物を見つけた訳です。

「あ、あいつだ」
思わず、そう口に出しちゃったんだけど、かなり遠くだったにもかかわらず相手は振り返った。やばいって顔で即座に走り出す。
俺も慌てて駆けだし―――― うおお、追いつけん! 距離がありすぎる!
長い廊下をダッシュダッシュして、こりゃ無理、って思った時、相手はびたん、って転んだ。
耳元でティナの声が聞こえる。
「今のうちに」
「恩に着る!」
姿は見えないけど、どうやらついてきてくれてるらしい。
うちの同居人、怖いけど面倒見はいいんだよな。感謝感謝です。
俺はなかなか起き上がれないでいる目標に追いつくと、その手足を縛り上げる。
念のため確かめたところ、やっぱり服の中には毒刃を隠し持っていた。変な服着てるけど、楽師のつもりなんだろうか、これ。
ともかく、無事任務達成できた! ありがとう、ティナ!
そんなこんなで後始末は他の人に任せて帰ってきたわけです。

家に帰るなり、窓辺に寝ていた猫が「どうやって見分けたんですか」と聞いてきた。
うん、聞かれると思った。俺は自分でお茶を淹れながら返す。
「あいつ、窓の外見てたんだよ」
「それだけですか。それだけで同類扱いとか、どれだけあなた寂しがりなんですか」
「最後まで聞け! 何もない窓の外を見てたの! 念入りに! 目線からいって逃走経路確認してるって分かったんだよ」
「あー」
同じこと、俺もするからな。新しい場所行ったらまずやる。
やらないと暴力王女に殺されたりするからな。かなり優先順位高いんだよ。
「何だかんだいって、やっぱ共通性あるんですね」
「あるみたいだな」
「ネギが好きとか」
「まず俺は好きじゃないし、それ暗殺者と全然関係ないからな」
「今日はネギ鍋にしましょう」
「やめて!」
一応懇願してみたけど、こっちはまだ雨のせいかティナはだるそう。
いやもうだるいならネギ鍋でもいいけどな。俺はお茶のカップをもう一つ窓辺に置く。
外に見える空は灰色で、けどそこには少しだけ晴れ間も混ざってた。黒猫がだるそうに起き上がってカップを取る。
まったく湿ったいけど、こんな日もたまにはいいかもしれない。
変な仕事を無事終えた俺はのんびりとした日常を、ネギが出てくるまで堪能することにした。