不適合者

mudan tensai genkin desu -yuki

俺の親友は、多分城内で一、二を争う変り者だと思う。
なんで一、二かっていうと、そいつの嫁さんもかなり変わっているから。ちなみにうちの主君は数に入れてない。入れたら確実に順序変わる。
ただでさえ「変人しかいない」とか「実力主義とは変人主義のこと」とか言われてるうちの職場だけど、大体事実だから何も言えない。
それはつまり「能力を発揮するにはある程度自由が必要だ」ということなんだろう。
その自由を突き詰めすぎた結果、ひどいことになっていると言えばそうなんだけど、それにしても―――― 今回は何やってるんだ。
俺は、机の反対側から親友の手元を覗きこむ。
「それって城の見取り図だよな。何に使ってるんだ?」
「この城を落とす時に、何処から攻めればいいか検討してる」
「本当に何やってるんだ!?」
いくら他国出身とは言え、お前一応ここに雇われてる学者だろ! なんで城落とそうとしてんだよ、意味わかんない!
こんな話が誰かに聞かれたらどうなることやら……慌てて俺は辺りを見回したが、辺りには誰の姿もない。
もっとも城の図書室なんて死角いっぱいあるから、誰か隠れてたら分かんないけどな! そこまでする変人はいないだろ!
俺の親友である魔法士――エリクは顔を上げると面倒そうに言った。
「本当に攻めるわけじゃないよ。費用がかかりすぎる。単に、警備の見直しを行うから現状に問題があったら提出しろって話がきてるんだ」
「ああ、なるほど……」
自分ならこの城をどう攻撃するか、ってのを何人かから聞き取って対策することで警備強化しようってことか。
破天荒な発想だけどうちの主君ならやりかねない。
エリクの書き付けを見ると、北側の塔付近から侵入するって書かれてるのが読めた。塔付近って。城壁あるだろ、あそこ。
「魔法で空に浮けば入れるよ。あそこだけ対空の監視が薄いから。城壁自体老朽化で多少削れてるのもあるし、身体能力高い人間なら魔法使わなくても入れるんじゃないかな」
「いや……俺は無理だと思う」
いくら壁に足をかけることが出来たって、あの高さの城壁を上るのは無理。ムリムリ。
城の外周の景色を思い出しながら俺がそう言うと、エリクは構わず書類の末尾に署名をした。
「ともかく、僕の仕事はこれで終わり。研究に戻るよ」
そう言って出ていく親友を、俺は見送る。
魔法士とか研究者には、なんだか変わった仕事も来るもんなんだな。
―――― なーんて思ってたら、翌日城が攻められました。

「城が攻撃されてる!? なんだそりゃ!」
突然の召集に、庭で芋焼いて食ってた俺たちは騒然となる。
なんで城の庭で焚火をして芋を焼きだしたのかは自分たちでもよく分からないけど、この国の武官ってほんと変な奴らばっかだな。
とは言え「攻撃されてる」なんて聞いたらみんな殺気立つ。
それぞれ即座に武器を持って、敵が攻めて来てるっていう北の城壁に駆けつけた。―――― って、北の城壁?
嫌な予感がする……。
そう思いながら、俺は他の武官と並んで城壁の上から外側を覗きこんだ。
そして、絶句する。
「陛下……」
「お前らようやく来たのか」
何本もの短剣を壁のひび割れに差しこみながら城壁を上ってくる人……。
整った顔に悪い笑顔が似合う侵入者は、この城の主その人だった。

近くから、別の武官の呆然とした声が聞こえる。
「陛下……いったい何を……」
「ぼーっと見てると侵入するぞ。お前ら、侵入を許したら減給だからな」
「は……?」
何を言っているのか分からない、という同僚とは別に、俺はぴーんと来た。これってあれか! まずい!
俺はあわてて周囲に叫ぶ。
「おい、陛下を迎撃するぞ! 中に入れるな!」
「はいぃ!?」
「そうそう。急げよー」
臣下にあるまじき俺の発言に、周囲が「狂ったか」という顔になる。
だけど、陛下本人だけは機嫌が良さそうに急かしてくる。壁上ってるんでなきゃ手を叩いてくださってたかもしれない。
俺は着実に上ってくる陛下の下―――― 興味がなさそうに地上で立っている親友を指さす。
「多分これあれだ! 非常事態に対応できるかの訓練だ! この間どこの警備が薄いか聞き取りやってたし!」
「あたりー」
陛下、信憑性が薄まる言い方なさらないでください。
でも、さすがうちの変人武官たち。主君の突飛な言動には慣れてるらしく「まじか……」とぼやきながら武器を抜いた。
そのまま遠慮なく、王にむかって短剣の投擲を始める。うちの国ほんとすごい。
しかしそんなことを出来るのも、主君の強さに対する信頼があるからで―――― 現に全ての攻撃は、陛下の持っていた短剣の一閃で弾かれ落ちていく。
「こら、本気でやれ。減給するぞ」
「うわ……」
正直城壁にまで到達されたらまず勝てない。壁に張り付いてるうちに落とさないと減給確定だ。
俺は短弓を手に取りながら、地上のエリクに叫ぶ。
「お前がそこにいるってことは、陛下落ちたら魔法で受け止めてくれるんだろ!」
だったらこっちも遠慮なくやれる。
けれどエリクは、平坦な声で返してきた。
「違うよ」
「え」
何それ。マイペースなのも大概にしてほしい。
呆然とする俺と、のりのりで登ってくる陛下。エリクが淡々と返す。
「そういう場面もあるかもしれないけど、でも違う。僕がいるのは―――― 侵攻側としてだよ」
「え」
「よーし、ついたぞー!」
「げ……!」
エリクとのやり取りに気を取られてるうちに、陛下が上まで来ちゃった!
他のやつらも攻めあぐねてたみたいで、慌てて陛下から距離を取って構える。
―――― その時、地上からエリクの声が聞こえた。
「撃て、射よ、灼熱と炎滴の矢」
「詠唱かよ!?」
思わず叫んだ直後、陛下の周りに炎の矢が現れる。
全部で十二本。陛下を取り囲むようにして静止した矢は―――― 当然のように、俺たちへと向かってきた。
「ひゃああああ!!」
やっぱり撃ってくんのかよ!
あらかじめ仕組まれてたのか、なんかこっちには魔法士がいない! 武官ばっかり!
必然的に魔法を防ぐことが出来ない俺たちは逃げ惑いながら、刃毀れ覚悟で炎の矢を払った。
そこにけれど、陛下が突っこんでくる。
「逃げても無駄だぞー!」
「ひぃぃぃぃ!」
なんだこれ、なんなんだこれ!
嬉々として自分の臣下を追いまわす王とか意味わかんないけど割といつも通りだ!
「こらお前らー! 減給が恐くないのかー!」
あなたの方が恐いですけどこれは仕方ない! ええい、やるっきゃない!
覚悟を決めて反転した直後、またエリクの声が聞こえる。
「風の刃、火の火、渦巻く空―――― 」
「詠唱やめろお前!」
なんなんだこの状況もう最悪だ!
そう思いながらも俺たちは半泣きで主君にかかっていく。

そこから何だかんだで蹴散らされるまで十数分。減給を覚悟した俺たちは「まあ頑張ったんじゃないか?」とのお言葉を頂き、死屍累々のまま安堵した……。よかった……。
ちなみに後日、魔法士版の緊急訓練も行われたらしい。