予知夢

mudan tensai genkin desu -yuki

昔見ていた未来の夢では、いつも自分は一人であった。
何処か遠くの街で、或いは知らない国で、一人で働き、余暇を過ごしている夢。
そこにどんな願望が込められているのかは考えたことがない。ただ雫にとって、夢の景色はいつもそのようなものだった。
けれどいつからか―――― 違う夢を見るようになったのだ。飛びぬけて変わったところのない、胸が痛い程温かい夢を。

「ひめ、ゆめを、みました」
たどたどしい言葉でそう言うと、テーブルの向かいに座るオルティアはカップの湯気越しに目を細めた。
ゆっくりと、雫にも聞き取りやすい発音で返してくる。
「どのような夢だ?」
「みらい、の、ゆめです」
自分の発音が正しいか、雫は女王の表情を確かめる。
まったく一から異世界の言語を学ぶということは容易くはない。
雫はそれでも「言葉が通じていた時期」があった為、読み書きについては若干ましではあるが、聞き取りと発音は実に危ういのだ。
この間などはオルティアに「差し入れのケーキを持ってきた」と言うつもりで「町を焼いてきました」と連呼して大騒ぎになったくらいである。
雫は緊張して女王を見たが、ちゃんと通じていたらしい。オルティアは「未来の夢か」と微笑んだ。
「おにわで、いっしょ、ひめと」
「今と変わらぬではないか」
「こどもが、いました。わたし、と、ひめの」
「ほう……妾はお前を王配にするのか。それも面白いな」
返された冗談は、分からない単語があった為、雫には理解できなかった。首を傾げる彼女に、オルティアは「よい」と笑ってみせる。
忙しい執務の合間、テーブルを挟んでお茶を飲む二人は、窓越しに城の中庭を見下ろした。

いつから、人と一緒の未来を夢見るようになったのだろう。自らが知る場所で、親しい人間たちと時間を共にする夢を。
それは或いは、「自分は何であるか」と、あまり考えなくなった頃からかもしれない。
誰と比べることもなく、誰に譲ることもなく、自分で自分の道を選べるようになった頃、見始めた未来はいつも、この魔法のある世界でのものだった。精神から少しずつ異世界の人間となっていった雫は、走り抜けてきた旅路を振り返る。

穏かな空気が茶の香りと混ざり合う午後、オルティアはふっと柔らかい目で青い草々を眺めた。
「そうだな。妾もそのような夢を見てみたいものだな」
「いっしょに、います。ひめと」
「ああ」
他愛もない約束を重ねて、未来へと繋げる。
そう出来る今は幸福だろう。雫は上手く言葉に出来ぬ思いを胸に空を見つめる。

かつては想像もしなかった遠い世界、広がる青は故郷の空と同じく―――― だがその下にいる自分はもう、一人ではなかった。






十年後

「陛下……」
「どうした、ヴィヴィア?」
「私時々、自分の子育て間違ってたかな、とか思うんです……こんな風に城の庭におかしな植物を蔓延らせてしまった時とか……」
「気にするな。いつものことであろう」
「それで納得してしまうのも親としてどうかと」
「知っていて止めぬ妾の子らにも問題はある。あとでまとめて説教しておけ」
「かしこまりました」