掟破り

mudan tensai genkin desu -yuki

五人の神によって分割統治された、五つの大陸。
それぞれの大陸には、主神の性格によって色々異なるところが出てきている。
「空を飛ぶものが存在しない」なども、その一つだ。

遥か地上の街を見下しながら、ティナーシャは自らが乗るドラゴンにぼやいた。
「大陸脱出を防ごうという腹積もりなんだろうが。水の檻まで作って周到なことだ」
別大陸から来た魔女は、煩わしげに長い髪を払った。
主人の言葉に、ドラゴンのナークは軽く鳴いて返す。
「水の檻」という神遺結界のせいで転移が出来なかった彼らは空を飛び、水の檻に強引に穴を開けて中に入ってきたのだ。
ティナーシャはナークの背に腹ばいになって頬杖をつく。
「どこかで休ませてやりたいが、地理も把握したいからな。もう少し飛べるか?」
魔女の問いに返ってきたものは、自信たっぷりの鳴き声だ。
ティナーシャはふっと笑って頷いた。
「よし、なら少し高度を下げてくれ。東から行こう」
完全な人の統制を実現したこの大陸には、彼女の片翼である王が囚われているはずなのだ。
だが、まだどこに彼がいるかは分からない。生まれてもいないかもしれない。
ティナーシャは、初めて見る街を眺め降ろしながら皮肉げに目を細める。
「こう、『焼き尽くせ!』とか言いたくなるな」
ナークがかぱっと口を開く。
「あ、いい。やらなくていい。面倒なことになる」
そうしてしまえればうさも晴れるかな、とは思うが、罪のない人々が巻きこまれて大惨事になってしまう。
今も、混乱を防ぐために自分たちの姿は不可視にしてあるのだ。
ナークは吐きかけた焔をあわてて飲みこむ。ぼひゅ、っと小さな音の後、ドラゴンはけぷけぷと咳き込んだ。
ティナーシャはドラゴンの頭を撫でてやる。
「まあ、それは最終手段だ。落ち着いたら当分はお前も休眠するといい」
逸脱者である主人たちと違って、契約に守られているとは言え、結局は普通の生き物なのだ。
機を見て時間を留める休眠を取らねば、いずれは主人と共には生きられなくなる。
束の間の別れを示す言葉に、ナークは淋しそうな鳴き声を上げた。
ティナーシャは苦笑してまたその頭を撫でる。
「眠りに落ちれば一瞬のことだ。お前を私たちに付き合わせるのも悪いがな……あの人が生きている限りは、付き合ってくれ」
ナークを拾って使役し始めたのは彼女だが、今の主人は彼の夫だ。
そしてティナーシャは、夫とこのドラゴンの間に深い繋がりがあることも知っている。
せめて夫がこの運命から自由になるまでは、ナークには寄り添っていてもらいたい。
それが自分の傲慢だと分かっていても、そう願うのだ。
「行こう、ナーク」
魔女の声に応えて、赤いドラゴンは空を行く。
新たな大陸、新たな空に彼らは二人きりだ。
―――― それは鳥籠が生まれる、ほんの数か月前のお話。