この世の真理

mudan tensai genkin desu -yuki

「先視とは、つまりはどういうことなのかな」
そう王が問うてきた時、巫である彼女は答えた。
「可能性の後追いでございます、陛下」


盲いた目に見えるものは、全てが今ではない時だ。
今が知りたければ、耳と鼻、そして肌に頼るしかない。
そうして二つの時間を生きる彼女は、或る日或る人物について主君に相談を受けたのだ。王族としての位を与えられたばかりの青年について、異母兄である王はぼやく。
「どうにも、勝手に損をするところがあって心配なのだよ」
「殿下のお人柄でございましょう」
そうは言っても、当の青年に無茶を強いて貧乏籤を引かせているのは王本人なのだから仕方ない。
だがしかし主君はそのことを分かっているのかいないのか、いたって真剣な声音で続けた。
「せめてよい縁談を与えてやりたいとは思うのだけれど、なかなかいい娘もいないし本人も乗り気じゃない。何処かに、あれがどうしようもない状況に陥った時にも役立てるような家柄の娘がいればいいのだけれどね」
ぼやくような王の言葉は、独り言ではなく彼女の助言を待っている。
本当はもっと真剣に臣下である弟のことを案じて、その未来がどうなっているのか知りたいのだろう。
彼女は、血の海の只中で倒れている青年の姿を視ながら苦笑した。
「確かに、殿下は少し損をなさることがおありのようで」
―――― だから、彼は死ぬ。
裏切りの中にあっても怯むことなく主君の為に戦って死ぬのだ。
その死を王がどれ程嘆くか、彼女は視て知っている。巫である女は、青年の死体を指さす「女」の背から意識を逸らした。
そして兼ねてから考えていた或る賭けについて、口にする。
「実は、お相手としてちょうどよいお方がいらっしゃいます」
「ほう。どんな娘だろう」
「二人といないお方です。彼の方との間によい御縁を築くことが出来れば、殿下のみならずこの国にも強き守りをもたらしてくださるでしょう」
それは、神と結ぶ縁だ。


先視とは、可能性の後追いであると、彼女は思う。
一番在り得るべき結果を事実として、彼女は視る。
そしてだから、見えたものをどう使うかが、先視の本分であるのだ。
融通の利かない、だが実直な青年と、強く在りながらも孤独を厭う神。
彼らは果たして、互いの存在を知ってどう思うのだろうか。
己と全く異なる相手に、どのような感情を抱くに至るのか。
きっとそれは賭けだ。


「気に入ったようだよ」
主君からそんな言葉を聞いたのは、当の青年が王都を離れてしばらく経った頃だ。
一つの事件を終えて王のもとに報告に帰って来た彼。その話を聞いて、主君も内心喜んだのだろう。二人きりになると、嬉々として彼女に教えてくる。
「美しい娘だとは聞いていたけどね。あれはあまりそういうことを気にしないから……でも気に入ったようだ。これでひとまずは安心だね」
「お相手の方がどう思われているのかが分かりませんが……」
「あれに好かれて嫌な気分になる娘はいない」
「…………」
そうだろうか、とも思うが、王の弟贔屓は今に始まったことではない。
それに、彼女自身思っているのだ。青年の不器用な誠実さは、神の心さえも変えるに足るものだと。
アイリーデの主である娘が、彼女の視た通りの少女であれば、きっと青年を好いてくれるだろう。根源的な孤独を抱える神は、人の温もりを欲している。夜の街で変わらない想いを求める彼女に、青年の愚直さは貴いものとして映るはずだ。
王の巫は、淡く微笑む。


神の道行を変えるのは、きっと不遜だ。
それは人の運命を変えると同じくらいのことだろう。
だが、本当に先行きが変えられぬものならば、きっと彼らは互いを選ばない。
もし選ぶのなら、起きたことこそが真理だ。


「ベルヴィ? 嬉しそうだね」
「ええ」
賭けに勝つ日を―――― 願いが叶う日を待っている。
その時が来たなら、喜んで己の命を払うだろう。
自らが選んだ可能性が眩く輝く、その様を視ることが出来るのは巫である彼女だけなのだから。