コケシの旅 10

禁転載

よく晴れた日は散歩に限る。
そう三歳のジウが思っているかどうかはともかく、この日彼女は使い魔のメアに連れられて散歩に出かけていた。
キスク城都の郊外を、緑色の髪の少女と黒髪の幼児は手を繋いで歩いていく。
あちこちに視線を引かれて小さな頭を動かしているジウは、けれど手を放して急に走り出すようなことはしない。大声を上げることもなく、素直に使い魔の手に引かれていた。

まったく笑顔を見せていない彼女は、散歩を楽しんでいないわけでは決してない。単に感情をあまり顔や行動に出さないだけなのだ。
だがこの日のジウは、何かを見つけたのか珍しく唐突に足を止めると、メアの手を引っ張った。無言で細い路地を指差す。
「どうしたのですか?」
「あのひと」
日の差さない建物の影、小さな机を置いて年若い女が座している。
白金の髪のせいか透きとおるような印象を抱かせる彼女は、どうやら占い師のようであった。
メアは白い花束が置かれた机を一瞥して、そのことをジウに教えてくれた。だがそれでも興味が失せないらしい彼女は女の方へと歩き出す。メアはそれを留めるわけでもなく、結果二人は共に占い師の前に立った。女は蒼い瞳を軽く瞠る。
「うらない、するの?」
「したい」
使い魔の少女がジウの為に椅子を引く。その椅子によじ登った彼女は、近くなった目線で占い師の女を見た。
白金の髪の女は目を細めて幼い子供を見つめる。
「でも、あなた、半分しかみえない」
「はんぶんこ?」
「魂が半分ちがうから。なぜ?」
その疑問の意味が、ジウには分からなかった。おかしな表情になったのはメアだけで、だが彼女も何も言わない。
ジウは白い花束に気を引かれていたが、ふっと顔を上げると頷いた。
「はんぶんこ、する」
「半分でいいの?」
「する」
「あなた、大きくなったらお城に住むわ」
人によっては驚くかもしれないその言葉は、しかしジウからすると違和感のあるものではなかった。
宮仕えの人間たちの中には城に住んでいる者も多い。
彼女の両親は単に家庭があるから城の外に住んでいるだけで、ジウの知る大人たちの中にも城で寝起きをしている人間は何人もいるのだ。
だから彼女はそれを聞いて、頷いただけだった。
占い師の女は大きく首を左に傾ぐと、続きを付け足す。
「好きな方をえらぶの? 放置できない方をえらぶの?」
「えらぶ?」
「半分しかみえないから」
まったく会話がかみ合っていない。
それは当人たちがどちらも歩み寄ろうとしないこともあって、ますます先の見えない方角へと転がっていく。
後ろに立っていたメアは、そろそろ限界と思ったのか「もう帰りましょう」と彼女を促した。
ジウはその言葉に大人しく椅子を下り―――― だが代価が必要と思ったのか、困惑した顔になる。
当然ながら、彼女は金銭など持っていない。それはメアもそうなのだろう。助けを求めるように見上げてくる彼女に、使い魔の少女は首を左右に振った。
ジウはエプロンドレスのポケットに手を入れて、何かめぼしいものがないか探り出そうとする。
だが性格上、菓子を余分に取っておいたりはしない彼女は、そこに何も見出すことは出来なかった。
悩んだ末、ジウはレースのたっぷりついたエプロンドレスそのものを外して自分なりに(ぐちゃっと)畳み、机の上に置く。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
それで通ると、メアは思っていなかったのだが、占い師の女は平然と子供用のエプロンを受け取った。
しかしすぐに首を右に倒すと、彼女は何かを考え込む。
「半分だけ、だったから」
そして懐から何かを取り出した。ジウに向かってそれを差し出す。
「これをあげる」
手渡されたものは、木で出来た棒状の人形だ。目を丸くして受け取ったジウに、女は「料理に、使うといいかも」と付け足す。
「ありがと」
「どういたしまして」
ジウは女に手を振ると、再びメアと手を繋いで歩き出した。キスクの城都を家に向かって帰っていく。



帰宅してからジウは、「料理に使うもの」として貰った人形を台所に置いておいた。
それを見つけた母親が「え? え? 何でコケシが? 呪い? 何で動くの?」と激しく困惑し、動揺したことは言うまでもない。