コケシの旅 03

禁転載

ファルサス城の内情を少しでも知る他国人は、大体が口を揃えてこう言う気がする。
『ファルサス城は変人ばっかりで、いつも変な事件が起こっている』と。
そしてそれは残念ながらおおむね事実だ。否定出来ない自分が少し悲しい。
否定出来ない上に、皆それに慣れきってたりするんだよな。だから変人の集まりって言われると思うんだが。

というわけで、今日は宝物庫の虫干しに借り出されている。場所は中庭の一つ。ここに宝物庫内のものを並べて整理しているんだ。
―――― が。
……笑いながら皆が散り散りに巨大イカの足から逃げてるってどういう事態なんだろう。この国本当変だ。
「わっはははは!」
笑いながら逃げていた魔法士の足を、イカの足が絡め取る。
そのまま宙に逆さづりされても笑い続けてるって異様な光景なんだが、俺も笑ってるから仕方ない! 
誰だ変な魔法薬の瓶を割ったのは! っていうか、これ結構体力消耗してくぞ!
俺は大笑いしつつ慌てて反転すると、空中をうねるイカ足めがけて短剣を投擲した。お、命中。
女の腰ほども太さがある足はびくっと硬直すると魔法士を手放す。そのままべちゃりと草の上に落ちた魔法士を別の魔法士が引きずった。

今は五本のイカ足が暴れ狂っているが、その大元は大人が二人がかりで運ぶような鉄の箱だ。
どうやらその中にはクラーケンの足が封印されてたらしくて、迂闊に開けたらこんなことになったという。
中庭に置かれた開きっぱの箱の中から、どうやって入ってたんだ、ってくらいの足がはみ出てじたばたじたばたしてるんだが、これはちょっと正気を失いたくなる光景だな!
ともかくそろそろ死人が出る前に何とかした方がいいっぽい。なんかさっきから色んなものが割られてるし。
俺は一旦イカ足の射程外に出ると長剣を抜いた。近くにいた魔法士の肩を叩く。
「わっはははは、よし! 箱を閉めるぞははははっ!」
「ってあはは! 行ったら死んじゃわないかなははは」
これ傍目から見たら楽しそうに見えるんだろうか……ちなみに全然楽しくない。

とりあえず簡単に手筈を打ち合わせると、俺は鉄の箱に向かって走り出す。
当然ながらイカ足がそれを阻もうと向かってくるわけだが、援護の魔法士たちが俺に届く前にその足を焼いて威嚇した。あ、なんか香ばしい匂い!
火に怯んだのかイカ足の勢いが鈍る。その隙を縫って俺は箱に達した。よし、重い鉄の蓋を持ち上げる……ってええええええ!
「ぐわあああああっははははは!」
今まで箱の中に潜んでいたのか、現れた六本目の足が胴に巻きついてきた! 
そんなのアリか! って叫びたいがあいにく笑い声しか出ない。おかしくない! おかしくないから!
ってこら、人を逆さにするな! 振るな! こんな理由で死ぬのは嫌だ!
悶絶しながら俺が足掻いていると、しかしその場に笑っていない涼しい声が響く。
「面白いなー。食えるのか? これ」
体を締め上げていた足が急に力を失う。
そのまま地面に叩きつけられそうになった俺は、落下直前、咄嗟に体を丸めて草の上を転がった。
顔を上げると王剣でさっさとイカ足を切り落とした陛下と目が合う。
「あはっ、陛下っ! 申し訳っははははっ!」
「何言ってるか分かんないぞ」
周囲にいる人間たちの中で唯一笑い転げてない陛下は、しかし表情を拝見するだに本当にこの事態を面白がっているように見える。
結局そんな陛下に言葉での謝罪を諦めた俺は、止められない笑いに消えたくなりながら草の上に這いつくばって頭を下げたのだった。あーあ。

「イカ罠箱とは面白いものが混ざってるな」
壊されたものと散らかったものの後片付けに魔法士たちが走り回る中、陛下は辺りを見回すとそんなことを仰る。
まるでもう一個ないかなーとでも言い出しそうなノリだ。次はタコとかあったらどうしよう。
しかしこれ、宝物庫の中の雑然さが窺い知れるな。陛下が即位されてから整理を行うのは初めてらしいが、もう永久に整理しない方がいいかもしれない。
そんなことを考えていると、一人の魔法士が走ってきて陛下の前に跪いた。手の中の何かを掲げる。
「陛下、目録にないこのようなものが落ちていたのですが」
「あ! それ、俺の……」
こないだエリクに貰った変な人形! 多分逆さにされた時に落としちゃったんだろう。
思わず声を上げてしまった俺に、陛下と魔法士の視線が集中した。陛下は人形を取り上げるとそれを手の中でくるくる回す。
「お前の私物か。変なのだな。呪具か?」
「い、いえ人形らしいです」
「ふーん。あ、ここが開く」
陛下は人形の台座を捻ると、中から細く丸めた紙を取り出した。
へー、そんなものが入ってたのか。何て書いてあるんだろ。
「白紙か。面白い作りだな。何処で手に入れたんだ?」
「ええと、エリクの奥方から……」
「あ、人参娘か。道理で変な顔ついてると思った」
人参娘。あの子をそう呼ばれるのは陛下だけだと思うが、充分通じるな。

変なところで納得していると、陛下は人形を手に持ちながら「これ欲しいなー」と仰られた。
うっ、それは別に構いませんが……どうされるんですか、それ。
「お前には代わりにこれでもやる」
適当に放られたのは鞘に入った剣だ。って宝物庫にあったものじゃないですか? これ。
細身の剣を鞘から抜いてみると少し紫がかっている。うわー、これ、魔法の剣だな。
「昔、魔女が使ってたらしいぞ。面白いだろ」
「そ、そのようなものは頂けません!」
「そろそろ変な剣も溢れてきたから持ってけ。命令」
うわー、そう命じられたら逆らえない! 
俺はめちゃめちゃ恐縮しつつ、跪いてその剣を拝領したのだった―――― って元々は改造制服だったのに。化けたな!



後でエリクにあってそのことを話して謝ったら「よかったね」って言われた。別にあの人形はそう大したものでもなかったらしい。ちょっと安心。
でもそれより俺が気になってるのはあの服をあの子がどうしたかってことなんだが……怖くて聞けないな。そっとしとこう。


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