ニケ君を動かせ! 11

禁転載

ニケ君への助言は「まだ終わらんよ! さぁ傷心旅行に行くぞ!」で決定しました。
―――― それではニケ君の後半戦。どたばた旅行記をお楽しみ下さい。



眼下に広がるものはただ灰色の海である。
陸に向かって吹き付ける強い風。その風が無数の白波を生み出し、全ての舟を拒絶して荒れている。
大陸の北東、そこから外に向かって広がる海に終わりは見えない。少なくとも彼が立つ絶壁の上からは。
「……道、間違えたか?」
あと数歩踏み出せば間違いなく命はなくなるであろう断崖に呆然としていたニケは、手元の地図に目を落とすと呟いた。
近くの町に向かっていたはずの道行き―――― 初めて訪れた国の為、当然転移は使えない。

女王の言葉に甘えて彼が珍しく旅行になど出たのにはそれなりの理由がある。
理由はあるのだが、強いて言えばその理由を風化させたいということが目的だろう。少なくとも断崖から落ちる為に来たわけではない。
ニケはぶつぶつと独り言を呟きながらもと来た道を戻った。分かれ道まで引き返すと、そこから道を変えて歩き出す。
「こんなことなら乗り合い馬車に乗ればよかったか」
そうぼやいてしまったのは、慣れない旅歩きに疲労を覚え始めた為だが、確か前の町で出会った御者は魔法着を着た彼を見ておかしなことを言ったのだ。
『魔法士はあの町に行くとよくない』と。
だが、そんなことは知ったことではないというのがやさぐれた彼の心情だった。
そしてニケは、湯治場で知られる小さな町にたどり着くことになる。

どこか遠くの景色でも見てくればそれで充分だったのだが、湯治になってしまったのは廊下で出くわしたウィレットがそれを勧めた為である。
「入っているだけでほかほかする色つきのお湯があるそうですよう」
と城都から出たことのない少女は力説したが、ニケは勿論その存在を知っていた。もっとも知っていただけで入ったことはないのだが。
―――― 折角の休みであるし普段しないことをしてみてもいい。
そんなことを考えた彼は、少女があげたいくつかの場所のうち一番遠そうな国を選んで城を出た。
そしてその国の中から更に一番辺鄙な町を選んで、今に至っているのである。つまり、不気味なほど赤いお湯に浸かるという休暇に。
「何で赤いんだ? 鉄が混ざってるのか?」
血の海、とまでは言わないが赤茶のお湯は視覚的にいささか衝撃を受ける。
他に客もいない広い浴槽は、よく磨かれた黒い石で作られており、赤い温泉の底知れなさを助長させていた。

ひとしきり疑問を呟きながらお湯に浸かったニケは、風呂を上がってすぐ廊下で宿の主人と出くわす。
おどおどと人のよさそうな男は何故か畳んだ服一式を抱えており、それを彼に向かって差し出してきた。
「お客さん。悪いことは言わないよ、これに着替えときな」
「何故だ?」
「それ、魔法着だろ? よくないよ」
「…………」
何だか色々嫌な予感がする。





―――― それでは皆様、ニケ君の休暇にアドバイスをくれてやってください。