ニケ君を動かせ! 12

禁転載

ニケ君へのアドバイスは「休暇は安全重視で! すなおに野良着に着替える。」に決定いたしました!
―――― それではニケ君の楽しい農夫生活一日目をお楽しみください。



差し出された野良着をニケは胡散臭げに見つめる。
着たくないと拒否したいのだが、ここに来るまでにも「魔法士にはあの町はよくない」と確かに言われたのだ。
わざわざこんな辺鄙な場所まで来たのはのんびりしたいが為のことであるし、多少は譲った方が平穏を得られるかもしれない。
彼は悩んだ結果、その野良着を受け取った。部屋に戻ると試しに着替えてみる。
「これでいいのか?」
厚手の布で作られた靴部分はそのまま膝までぴったりと添う作りになっており、彼の細い足首を目立たせている。
そしてその上からは腰までは何故かだぼだぼと膨らんでいた。前後にわたり多くのポケットがついていおり、腰には鎌などを固定する場所もあって、どうしても続く農作業を連想させる。
上着は当て布だらけの古ぼけたもので、彼よりも大柄な人間の為のものなのだろう、袖や肩があまって仕方ない。
ニケはいたしかたなく袖を子供のように三重に折ってみた。最後に薄汚れた布を首に巻き、頭に別の布を被って顎の下で縛る。
「…………似合わん」
鏡に向かってそう呟くと、鏡の中の胡散臭い男が同じ言葉を返してきた。
知り合いの誰にも絶対見られたくないその姿。見られたら記憶を消したくなる姿にニケは絶望して―――― だが、どうせ誰も知っている人間はいないのだからと外に出てみたのだ。何故魔法士がこの町では「よくない」のか、それが少しだけ気になったので。



旅人なのに野良着を着ている。それがとてつもなく変だということにニケが気付いたのは、あいにく町に出てしまってからのことだ。
最初に入った食堂で「兄ちゃん、力なさそうだねぇ」と女主人に言われて憮然となった彼は、酒と軽食を頼むと本題を口にする。
「この町に来る前に乗り合い馬車で聞いたんだが、魔法士に厳しいのか? ここは」
「魔法士? 別に厳しくないよ。確かにこの辺じゃ珍しいけどね」
―――― ならばこんな格好をしている意味はまったくないのではないか。
自分でもかなり恥ずかしい野良着を見下ろしたニケは、しかし女主人の次の言葉を聞いてその感想を飲み込んだ。
快活が常であるのだろう女は、眉間に皺を寄せて肩を竦める。
「でもここ数ヶ月旅の魔法士が続けて失踪しててさ。まいっちゃうよね。評判が悪くなって」
「……失踪?」
それは評判うんぬんの問題で済むのか。
ニケは宿においてきた自分の魔法着を思い出すと、憮然とした顔で出された酒に口をつけたのだった。



そもそもここへは湯治に来たのであって、田舎町を観光に来たわけではないのだ。
失踪とは面倒そうな話ではあるが、宿にこもってお湯につかっている分には関係ない話であろう。
そう考えたニケは寄り道せずにまっすぐ宿へと向かう。表向きの理由はどうあれ、まずこの服を脱ぎたかったのだ。
しかし、世の中そう上手くはいかなかった。
「あなた、魔法士ですね」
涼やかな声。感情のこもらない女の呼びかけに、ニケは足を止める。
振り返りたくはなかったのだが、往来には他に人がいない。ということはどう考えても彼に向けて言っているのだろう。
―――― 似合わない格好をした意味がなかった……。
と項垂れそうになったものの、ここで項垂れては余計無様である。ニケは、少なくとも表面上は堂々と振り返った。道の真ん中に立っている女を見返す。

第一印象は「綺麗な女だ」というものだ。
薄茶色の髪に蒼い瞳。彼より少し年下であろう。造作は整っているが、美女と言うよりは美人という表現が似合う容姿だった。
雰囲気からして女性的な匂いが薄く、服装を変えて髪を切れば少年でも通る気がする。
簡素な旅人の服を纏った女は、返事をしない男に向けて少し顔をしかめた。似た言葉で同じことを問う。
「魔法士ですよね。どう見ても。その服似合ってないし」
「…………だったらどうした」
「この町での失踪事件について聞きましたか? ―――― 少し手伝って欲しいことがあるのです」



―――― さて、ニケ君はどうしたらいいでしょうか!