ニケ君を動かせ! 13

禁転載

ニケ君への助言は「ちょっと気になるし、話だけ聞いてみる。」で決定しました!
―――― それではニケ君の湯煙ミステリをお楽しみ下さい。



関わりあいにはなりたくないが、失踪事件のことは気になる。
ニケは苦い顔で腕組みすると女に向かって言い放った。
「何だ。聞くだけ聞いてやる」
「ありがとうございます。では本題を」
「待て」
「何でしょうか」
「先に着替えさせろ。宿に戻る」
先程見破られてしまった時にほっかむりは取ったが、他はまだ野良着のままだ。
この格好で真剣な話をするのは非常に遠慮したい。ニケがそう要求すると女は首を傾げた。
「時は一刻を争うのですが」
「着替えさせろ」
「先程の私の発言が問題でしたか? では訂正しましょう。非常によく似合ってますよ」
「嬉しくないわ!」
何だかおかしな女に引っかかってしまった。
ニケは忌々しく舌打すると、女の返事も聞かず宿に向かって歩き出したのである。

魔法着に着替えなおしたニケは、宿の食堂で女と向かい合い茶を飲んでいた。
サイラと名乗った彼女はやはり湯治客で、別の国から来たらしい。
「失踪事件の始まりは三ヶ月前に遡ります。
 当時この町には三年前から住み着いていた魔法士がいたそうなのですが、その男がある日忽然といなくなってしまったのです」
「夜逃げじゃないのか」
「皆そう思ったそうです。が、その後旅人たちの中で失踪する者が出始め、彼らの共通点が魔法士であると分かりました。
 他にも彼らの共通点はあるのですが、それはどうやら『温泉に浸かっている最中に行方不明になる』ようなのです」
「…………」
話を聞いておいてよかった、とニケは心から思った。
これでは温泉こそが危険ではないか。まったく湯治に来た意味がない。
さっさとこの町を出た方がよさそうだ―――― そう思う彼にサイラは続ける。
「消えた彼らは情報を集めるだに、ちゃんと魔力を持った魔法士たちです。
 この町には他にも制御訓練を受けただけの人間がいますが、そちらは無事のままでした。
 そして失踪の原因はまったく掴めぬまま、昨日新たな失踪者が出ています」
「この後に及んでまだ用心していない奴がいるのか。どんな間抜けだ」
「私の師匠です」
「…………お前、魔法士なのか!」
思わず大きな声をあげてしまったニケに、女は平然と「そうですが、何か」と答えた。
通常人が魔法士を見分ける際には、その服装で見分けることがほとんどである。しかし魔法士同士であれば魔力が見えるのだ。
勿論、相手の魔力を見抜くにはそれなりの訓練や技術が必要である為、出来ない人間も多いのだが、その技術があるらしい彼女にはニケがやはり魔法士であることはバレバレだったのだろう。逆が通用しなかったのは、彼女の魔力量が少なかったからに違いない。目を細めてしなやかな体の中に少量の魔力を見て取った彼は、溜息をついた。
「それで。師匠を助けたいのか」
「はい。その為、一日情報収集に費やしました」
「なかなかの聞き込み能力だな。それで方策は出来たのか?」
「あなたに会いましたので一つだけ」
何だか嫌な予感がする。
ニケは聞きたくないと思ったが、「聞いてやる」と言ってしまった以上聞かないわけにはいかないだろう。
無言でお茶のカップを上げると話の続きを促した。サイラは出会った時から微塵も変わらぬ無表情で口を開く。
「私では魔力が足りず魔法士と認識されないようなんです。だから、あなたが囮になってください」
「…………」
予想通りの答だった。



―――― さて、ニケ君の返事はいかに!