ニケ君を動かせ! 15

禁転載

ニケ君への助言は「とりあえず吹き飛ばす。」で決定しました!
―――― それではニケ君のサービスシーン(?)をお楽しみ下さい。



微かに感じ取れる魔力。湯の中から沸き立つ泡。
ニケはその泡目掛けて無詠唱で強力な構成を組んだ。攻撃範囲を絞り、その分範囲内が一瞬で高温に達するよう指定する。
「行け」
小さな攻撃の言葉を呟くと共に、彼は立ち上がった。
浴場を揺るがす爆発音。一瞬で広がる水蒸気がニケの視界を奪う。
彼はあらかじめ張ってあった防御結界を強化しながら浴槽を出た。
久しぶりの攻撃魔法の行使に溜飲の下がる気分を味わいながら、それでも注意深く辺りの様子を窺う。
だが意識を研ぎ澄ませても周囲に動くものの気配はない。構成の気配もないと悟ってニケは眉を顰めた。
「……やりすぎたか?」
ここで何だか分からない者を殺して、はたして失踪した人間の行方が分かるのだろうか。
そんな疑念が一瞬頭をよぎったが、それより自分が失踪する羽目になってはたまらない。
ニケは更に一歩下がろうとして―――― にちゃり、と何かを踏んだ。
妙に弾力を感じるぬるぬるとしたもの。石鹸などにしては素足を絡め取る泥に似た感触に、ニケは嫌悪感を覚えた。足下を見ると半透明の紅い水溜りが彼の足を包み込んでいる。そのままゆっくりと蠕動しながら足を這い上がってこようとするそれに、彼は思わず声を上げそうになった。纏わりつかれた右足を振るが、それはべったりと足に張り付いて離れない。おまけに触れられた箇所から、少しずつ魔力が吸い出されつつあるのだ。
「これは……魔力食いか?」
おそらく魔物の一種であろう怪生物。その能力にニケはいささか危機感を覚えた。
「魔力食い」と言われる魔物はそういう種族がいるわけではなく性質の一種であるが、言葉通り魔力を持つ人間に接触してその魔力を食らう。
単に魔力を吸い取られるだけならば数日伏せればそれで回復するが、魔力を奪われ戦えなくなった後、体も食われてはどうしようもない。
ニケは真剣にへばりついているものを焼き剥がすべく、発火の構成を組んだ。
だがその構成に反応したのか、水蒸気の中から別の塊が跳びかかってくる。
真っ直ぐ右手に取り付こうとした赤い塊を、咄嗟にニケは空中で焼き払った。
けれどその隙に足にへばりついたもう一つが速度を上げて上ってくる。続けてまた別の塊がべちゃり、という音を立てて彼の腹に張り付いた。
「……っ何だこれは!」
何故湯治に来てこんな気持ち悪い目に遭っているのか。
色々なもの(主に女性陣)を恨みたくなった彼に、背後から涼しい声が響いた。
「魔法士の特権というものは裸でも戦えるという点があると思うのですが、魔力を奪われてはどうしようもありませんね」
「何故入ってきている! お前!」
「爆発音がしたら誰でも様子を見に来ます」
今は魔法着を着ているサイラは手に持った小振りの斧を軽く振るった。
それはニケの肌を掠めるすれすれを通り過ぎていき、脇腹から背中にかけて張り付いていた魔物を切り捨てる。
対魔物用に作成した魔法斧なのだろう。銀色の刃部分を一瞥したニケは、そこに「切断くん」と書いてあるのを見て色々嫌になった。新たな構成を組むと、それで足を上ってきている一匹を焼き払う。
「ともかくこれで原因は分かったな。失踪した人間は魔力食いに魔力を食われてその後体も食われた。これで決まりだろう」
「……そうかもしれません」
相槌を打った女の声は少しだけ沈んでいるようにも聞こえる。師匠を喪ったことに何かを感じているのだろうか。
けれど彼女の表情を窺うことは出来なかった。サイラは斧を持ったまま彼の前に背を向けて立ったので。

徐々に晴れつつある水蒸気。それを前にして斧を持った女は振り返らぬままニケに告げた。
「では、ありがとうございました。御礼は後ほど。
 ……ああ、もし急ぐのでしたら申し訳ありませんが、私の部屋の荷物から何でも好きなものをお持ち下さい」
「まだ戦る気なのか、お前は!」
「目指せ根絶」
何を考えているのか分からぬ女は唐突に右手の手斧を振るった。そこに引き寄せられるかのようにまた一匹が飛来し、そのまま両断される。
旅の魔法士ということはそれなりに近接戦闘の経験があるのかもしれない。少なくとも怯えや惑いは見られないサイラの様子にニケは小さく舌打ちした。再び視界に入り始める浴槽内に、ぬめるような赤い物体が蠢いているのを見つけて、彼はげっそりとした顔になる。



―――― さて次のターン、ニケ君のコマンドをお選び下さい。