ニケ君を動かせ! 18

禁転載

ニケ君への助言は「一応借り物だし、返しに行く。」で決定しました!
―――― それではニケ君の未知との遭遇をお楽しみ下さい。



変な刺繍が前面いっぱいに縫われているとはいえ、他人の魔法着である。
ニケは諦めて適当に洗濯したそれを袋に突っ込むと、嫌々サイラの泊まっている宿へと向かった。
あの洞窟では早々に転移で引き上げ町の人間を呼んできた為、彼は彼女から別れの挨拶も聞いていない。当然ながら彼女の個性的な師匠ともニケは顔を合わせていなかった。
「さっさと置いて、さっさと帰るか……」
でないとまた面倒なことになる気がする。
ニケは聞いていた部屋番号を元にサイラの部屋を探し出すとその扉を叩いた。すぐに中から女の声で返事が聞こえる。
「あ、あなたですか」
扉を開けたサイラはニケを見るなり「ありがとうございます」と頭を下げた。その後頭部に彼は服の入った袋を乗せる。
「借りていたものだ」
「はい。わざわざすみません。もし気に入ってくださったのなら、お礼としてあなたの魔法着にも刺繍を……」
「死んでもいるか!」
あんな奇妙に呪われぎみの刺繍をされたら二度と着られなくなってしまう。
少しだけ残念そうなサイラが「そうですか……」と呟くと、その声に重なって部屋の中から年配の男の声が響いた。
「サイラ、その方が助けてくださった魔法士かね?」
「はい、師匠」
「入ってもらいなさい。お礼を言いたい」

―――― 入りたくない。
事前にサイラから彼女の師匠の話を聞いていたニケは心からそう思ったが、彼を通すようサイラが脇にどいてしまった以上、そこで踵を返すわけにはいかない。聞こえてきた男の声が落ち着いて知的なものに思えたということもあり、ニケは覚悟を決めて部屋の中へと踏み込んだ。部屋の奥、木の椅子に座る老人と目が合う。年齢は六十代はじめくらいであろうか。魔法着を纏った白髪の男は柔和な笑顔を見せ、彼に頭を下げた。
「初めまして。私はクバロという。今回はサイラを助けてくれたそうでありがとう。私も助かったよ」
「……別に大したことではない」
「いやいや。おかげで石魚の破片まで手に入った。私にとっては非常な幸運だよ。全裸で捕まってよかったと言ってもいい」
「…………」
何だか雲行きが怪しくなってきた。
激しく帰りたくなってきたニケに、クバロは何かを思い出したのか手を打ち合わせる。
「そう言えば、まだお礼をしていないのだろう? サイラ」
「ええ。そうなのです」
「それはいけない。私からも是非お礼をしたい。えー…………この筋肉強制増強足輪とか如何か?」
「……どう見ても罪人がつける鉄球つきの足輪に見えるのは俺の気のせいか?」
「大きく違う。これは一度つけると三日は外せないように魔法をかけてあるのだよ」
「自分でつけとけ!」
やっぱりサイラの師匠は彼女と似た者であるらしい。
もうお礼はいいから帰ろう、そうニケが決心した時、クバロはお茶を淹れているサイラを指差した。
「ではサイラを差し上げるというのは?」
「もっと要らんわ!」
「師匠、それは酷いです」
お茶のカップをニケへと差し出してくる女は、自分を礼として呈されたことに珍しく眉を潜めて異議を申し立てた。
「私も就職活動を始めないといけませんから。奉公できるのはせいぜい一日三時間ほどです。
 せめて一日二十時間くらいは働けないとお礼として意味が……」
「礼の為にどれだけ働く気だ! 俺は奴隷商人か何かか!?」
「魔法具作成と裁縫は割りと得意です」
「造形が駄目すぎる!」

何だか怒鳴りすぎて頭に血が上ってくる。
肩で息をするニケは、何とか気を落ち着けるとのほほんとした二人の師弟を睨んだ。



―――― 雲行きがあやしい! ニケ君はどうすればいいでしょうか。