ニケ君を動かせ! 03

禁転載

ニケ君への助言は「危なっかしいから手を繋ごうとしてみる。」で決定いたしました。
―――― それではニケ君の珍道中をお楽しみ下さい。

隣を行く女はきょろきょろと実に落ち着きなく辺りを見回している。
このままでは誰かにぶつかるのも時間の問題だろう。ニケは舌打ちすると、彼女の右手を取ろうと手を伸ばした。
しかし、その手が触れ合う寸前、雫は何かを見つけたのか走り出す。
「ニケ! 大きな魚解体してるよ! すごい!」
「…………」
ちょっとは予想していたが、実際やられると非常に虚しい。肩を落としたくなるのを堪えながら、ニケは雫の後を追った。
―――― その時、後ろから誰かに手を掴まれる。

女の手。だがそれは雫ではない。彼女は魚の解体ショーに釘付けになっているのだから当然だ。
虚を突かれたニケに、耳元で女が囁く。
「楽しそうですね」
「お前は……」
聞き覚えのある声だ。だが、こんなところにいるはずの人間ではない。
非常に嫌な予感を覚えた彼は、振り返ると女を視界に入れた。ニケの手を握ったままのユーラはにっこり笑いかける。
「楽しそうですね。ところで先程、何をしようとしてたんですか?」
顔は笑っているけれど声は笑っていない。
女官姿ではなく剣を携えた女をニケは目を細めて睨んだ。
「ファルサス武官のお前が何故こんなところにいる?」
「わたくしですか? それは、お忍びの護衛としてです」
「…………」
聞きたくない単語がいくつか聞こえた。
全てを悟ったニケが絶句する隙に、ユーラは彼の手を放すと横にどく。その向こうには一人の女が立っていた。
「久しぶりね? 私の忠告は守っているのかしら」
長い黒髪に青い瞳。絶世の美女と謳われるファルサス王妹。
その威圧がこもる双眸と目があったニケは、―――― 死を覚悟したのだった。

結論から言ってしまうと、キスク宮廷にはユーラの後任である密偵がいたらしい。
その密偵はニケが雫を連れ出したことも報告したとか何とかかんとか。
それを聞いてやって来た王妹は剣呑な光を目の奥に宿してニケに笑いかける。
「いい? 私はあの子をエリクにやりたいの。色々と事情があるの。家庭を持てばファルサスの常勤になるんじゃないかとか」
「…………」
反論どころか発言も許されていないらしいことは、魔法の関与により声が出せないことから明らかである。
ニケは横目で、ユーラとはしゃぎながら魚の解体ショーに夢中になっている雫を見やった。そこに「聞いている?」と恐ろしい声が飛んでくる。
「同じことは二度言わせないで頂戴。余計なことはしない……いいわね」
言いたいことを言ってレティは踵を返した。雫の肩を叩くと「送っていくわ」と笑いかける。

結局こうしてニケは雫を取り上げられ、デートは失敗に終わったのだった! 残り、結婚まであと三週間!


―――― さて、この後ニケ君はどうしましょうか……。