ニケ君を動かせ! 06

禁転載

ニケ君への助言は「冷静になってみると、手紙とかやっぱちょっと……。とりあえず会話用の単語カードでも作っとく。」に決定しました。
―――― それでは皆様、ニケ君の必死の努力を見守ってやって下さい。


とりあえずまともな会話が出来ないのでは話にならない。
ニケはウィレットの話に案を得て、いくつか必要な単語をカード状にしてみた。それを携えて一週間後を待つ。

やって来た雫は彼の顔を見るなり「めうめうケーキ美味しかったね!」と笑いかけてきた。
思い出したくない甘すぎる味を思い出しニケはげっそりする。
「めきめきだと言ってるだろうが……お前は読み取りもまだまだだな」
「あれ? そうだっけ。ごめん」
雫は女王に会いに来たものの、少し早く来てしまった為まだ会議が終わっておらずオルティアの体は空いていない。
待っている間彼女は廊下でニケと並び、ぼんやり空を眺めていた。
キスクで働いていた時よりも穏やかな横顔を見やって、ニケは小さく舌打する。
「お前、読み取りは出来るのか?」
「いちおう。日常的なものなら」
「これは何て書いてあるか分かるか?」
「えー…………肋骨?」
「筋肉、だ。よく見ろ。肋骨はこうだろ」
「あー!」
どこか心あらずだった雫は、彼が差し出したカードに興味を持ったらしい。それを受け取って「これどうしたの?」と聞いてきた。
「俺が書いた。お前は話が通じなくて困る」
「う。ごめん。でもニケ、意外と字きれいだね」
「やる」
「いいの?」
カードを貰った雫は気のせいか、髪飾りを贈った時よりも嬉しそうである。
懐から取り出したペンで隅に何やら書き込むと、それを大事そうにポケットにしまった。
期待の目で見てくる女に、ニケはもう一枚を差し出す。
「これは?」
「おさけ」
「当たりだ」
かつて子供の教育を受け持った際に試験範囲として与えられた単語は、雫もさすがに覚えているらしい。
続けての五枚を次々言い当てると、彼女はそれを満足そうに手の中で重ねた。
次の一枚をニケはさりげなく同じように差し出す。
「これは分かるか」
「分かる。『好き』」
嬉しそうな笑顔を向けられ、その言葉を返されたニケは、何となく微妙な満足感を覚えて数秒間沈黙した。
その間に雫はカードを指で挟んでくるくると回す。
「でもニケ、これ一人称単数形でしょう? 普通動詞は不定形で書くんじゃないの?」
「……お前は本当に色々ぶち壊す奴だな」
「え。なんで」
こういうちょっとした機微はまず彼女には伝わらない。
ニケはそのことを再確認すると色々飲み込んで雫を見つめた。言いたいことを頭の中で整理する。



―――― ではニケ君は、何を言えばいいんでしょうか!