ニケ君を動かせ! 07

禁転載

ニケ君への助言は「ちょっと遠まわしに「キスクに戻って来い」と。」言うに決定いたしました!
―――― それでは皆様、ニケ君を生温かく見守ってやって下さい。



「お前、キスクに戻ってこないか?」
考えた結果、ニケが口にしたのはそんな言葉である。半ば呟くように洩れた言葉を聞いて、雫は驚愕に目を瞠ると首を傾げた。
「キスクに津波が?」
「城都は海に面していない!」
「あ、じゃあ南側?」
「津波から離れろ! 俺はそんなことを一言も言っていない!」
普通に話すように話していては、彼女にはまったく通じないということをつい忘れてしまっていた。
ニケは気を取り直すと、ゆっくりはっきり文節ごと区切って同じことを言い直す。
「お前は、キスクに、戻る、気は、ないのか?」
「あ、なるほど。ごめんごめん」
今度はちゃんと理解できたらしい。雫はしきりに頷くと、腕を組み「うーん」と考え込んだ。
「いつかは戻りたいかな……姫いるし。でも今は私、こんなでしょ?」
何が「こんな」なのかは聞かずとも分かる。元々彼女は言葉が不自由であったからこそファルサスの宮廷を離れたのだ。
いつもいつも彼女と意志の疎通が出来ない男は、それを思い出すと苦い顔で黙り込んだ。雫は腕を組んだまま彼を見上げる。
「だから、もうちょっと会話が普通になったら戻ってくるかも」
「いつ普通になるんだ、いつ」
「いつだろ。まじめにはやってるんだけど」
笑って返す彼女は、けれど少し困っているようにも見える。
実際ニケはオルティアから伝え聞いただけだが、言葉を失った最初の頃、雫はほとんど会話が出来なかったらしいのだ。
それを聞き間違えが多いとはいえ、今の状態にまで戻したということは彼女自身努力しているのだろう。
ニケは舌打ちすると背の低い彼女の頭をぽんぽんと叩く。
「まぁ頑張れ。こちらでも勉強は出来るから、気分転換したくなったら来い。俺が見てやる」
「うん。ありがとう」
雫が微笑んで最後のカードをしまうと同時に、会議室の扉が開いて文官が出てくる。
ニケは彼女の頭から手を離すと、女王に取り次ぎすべくその隣から離れたのだった。



雫はオルティアと束の間の時間を過ごすと帰っていった。
その夜、城内の自室に戻ったニケは、いつも通り部屋の明かりを灯して―――― 思わず硬直する。
「何だこれは……」
朝出る時まではそれなりに雑然としていた部屋が、綺麗に片付けられている。
机に重ねられていた本は全て棚に戻され、寝台は皺一つないほど完璧に整えられていた。
明らかに誰かが入って掃除をしたとしか思えない状況に、ニケは嫌な汗が伝うのを感じてその場に立ち尽くす。
この部屋には他者の侵入を拒む彼の結界が施されているのだ。
それをまったく綻ばせずに中に入って掃除が出来る人間など、この大陸には極少数しか存在しない。だがその少数に心当たりがある彼は、血の気が引く思いで周囲を見回した。
その時―――― まるで見計らったように、背後の扉が叩かれる。



―――― さて皆様、ニケ君のコマンドを選択して下さい。