ニケ君を動かせ! 08

禁転載

ニケ君へのアドバイスは「とりあえず、扉を開けてみる。」で決定しました!
―――― それでは皆様、ニケ君のホラーな体験をお楽しみ下さい。



扉をこつこつと叩く音はいつまで経ってもやみそうにない。
ニケは意を決すると、そっと扉に手をかけた。念のため防御結界を張りながら、それをゆっくり手前へ引く。
半分くらいは開けてすぐの攻撃を覚悟していたのだが、暗い夜の廊下からは何の魔法も飛んでこない。
安堵しそうになる心を抑え、彼は外の様子を窺う。
「あのー」
聞こえてきたのは、緊張感のないのほほんとした声だ。
闇の中から現れた少女は驚くニケに頭を下げる。
「お仕事お疲れ様です!」
先日話をしたばかりの女官―――― ウィレットはそう言って笑うと、脱力するニケを怪訝そうに見つめたのだった。

広いキスク城内には宮仕えの者の宿舎になっている棟がいくつかあるが、それらは基本的に男女と職種で別れている。
その為、このような時間に女官が訪ねて来るなど本来あり得ないことなのだが、ウィレットは実際、愛想のよい笑顔でニケを見上げていた。
彼女は一通りの挨拶を終えた後、もう一度頭を下げる。
「あの、お部屋を掃除させて頂いたんですけど、何か問題はありませんでしたか?」
「お前か!」
確かに行き届いた部屋の様子は、掃除に慣れた人間でなければ難しいものであっただろう。
ニケはその場にしゃがみこみたい気分に駆られて……だが、おかしなことに気づいた。目を細めて少女を睨む。
「どうやって入ったんだ。結界があったはずだ」
「入れてもらったんです。掃除もその人に頼まれて……」
「……誰だ」
聞きたくない。
が、聞かなければならないだろう。
ニケは戸口によりかかりながら答を待った。ウィレットは軽く首を傾げてその問いに返す。
「お名前は聞きませんでした。貴族の方みたいな……すんごく美人な女性でしたよう!」
「…………」
名前を聞く必要は、もはやなかった。



部屋の結界の他にもキスク城自体に無断侵入禁止の結界が張られているはずだが、大陸屈指の魔法士と言われる王妹は、それら幾重もの結界などものともしないらしい。
蒼ざめてしまったニケにウィレットは一通の封書を差し出した。
「それで、その美人さんがニケさんに渡して欲しいって……預かってました! はい、どうぞ!」
白い封書は何の魔力も感じられない。
彼は手紙を受け取ると、その場で封を切った。中の文書に目を通す。
綺麗な字で書かれていたものは一文だけ―――― 「可愛い友人ね」と。

手紙を届けるという仕事を終えたウィレットは、帰る機が分からないのか律儀にその場で待っていた。
ニケは大きな溜息をつくとあどけなさの残る少女を見やる。
「いいか? 今後今日の女を見かけても、絶対近づくな。話しかけるな」
「は、はい?」
「あと何か聞かれても自分は俺と無関係だと言え。分かったな?」

ファルサスの密偵は何処にいるのか分からない。だが、少なくとも王妹には筒抜けになっているのだろう。
今日の昼間のことだけではなく、ウィレットがニケに助言をしたことまで全て。
その上でレウティシアはウィレットにニケの部屋の掃除をさせたのだ。
いつでも部屋には入れるということと、彼の助言者を把握しているということを示す為に。

ウィレットは怪訝そうな顔をしながらも頷いて帰っていった。
その後姿を見送ったニケは部屋に戻るとおもむろにしゃがみこむ。
「……何故俺は、こんな目にあってるんだ?」
その疑問に答える者は誰もいない。






ニケと別れて自分の部屋に戻ったウィレットは、着替えると改めて今日のことを思い出した。
彼には何だか分からぬ忠告をされてしまったが、昼間彼女を呼びとめ男の部屋の掃除を頼んだ女は、とても綺麗で優しそうに見えたのだ。
別れ際には掃除の腕を誉めてくれた上、「これからも気付いたら彼の身の回りのことをしてあげてね」と微笑んで去っていった。
一体何が起こっているのか、想像も出来ないウィレットは伸びをして寝台の上に転がる。
「そういえばヴィヴィアさん、次は二週間後って言ってたかな……?」



―――― それでは皆様、この先の対雫戦、ニケ君はどうしたらいいでしょうか。