変わらない声 のおまけ

mudan tensai genkin desu -yuki

「一人暮らしはどうでした?」
と魔女が聞くとオスカーは広い肩をすくめた。
「どうもこうも。色々出来るようになったぞ。リトラが掃除洗濯とお茶汲みをやってはくれてたが」
「貴方が料理を作れるようになったってのが一番の衝撃です。クルシアが滅びていたことより驚きましたよ」
「いちいち外に食べに行くのは面倒だっただけだ」
彼が嘯くと、ティナーシャはくすくすと笑いながら宙に浮かび上がった。
王であった頃には家事の類など一切したことがなかったはずだ。
その後も料理はティナーシャが全て作っていた為、まったく初めての経験だったのだろう。
彼が一体どんな顔をして料理を覚え始めたのか想像すると可笑しくて仕方が無い。
腹を抱えて笑っている彼女にオスカーは白い眼を向けた。
「俺も料理が出来ないお前を初めて見たぞ。皿を何枚も割られた」
「何であんなだったんでしょうね……。本当は私、料理が苦手なんでしょうか」
「さぁな」
彼が手招くとティナーシャは膝の上に戻ってくる。
久しぶりに彼女が淹れたお茶の味を堪能する男に、魔女は苦笑を向けた。
「それにしても貴方、随分大雑把な作り方してましたよね。何の本見たんですか?」
「何も。適当」
「適当だったのか!」
「最初何冊か流し読んだら、肉を漬け込んでから焼くとか面倒そうでな。鍋の中で漬けながら焼いてみたりした」
「そういう創作料理を私に教えないでくださいよ!」
おそらくは彼こそが料理に向いていないのだ。確かに思い出すと料理自体は何とかできていたのだが……実に大雑把な味だった。
それを教わったリースヒェンがあんなになってしまったのも無理からぬことなのかもしれない。ティナーシャは頭を抱える。
「ちょっと真剣に料理を教えていいですか?」
「断る。折角お前がいるんだから作ってくれ」
「いや作りますけどね。またこういうことがあったら困るじゃないですか」
「お前がいないなら俺は自分の料理で充分だ。ほっとけ」
釈然としないものを感じて眉を寄せる魔女の額にオスカーは口付ける。
そうすると猫のように目を細める彼女に向かって彼は
「気になるなら、次は俺を残して死ぬな」
と囁いたのだった。