双頭の蛇 12

mudan tensai genkin desu -yuki

踊らされたのは誰か、それをこの時点で結論づけることはまだできなかったであろう。
誰もが誰もを罠にかけようとしていた。その上で起こった襲撃。
勝つために必要なものは情報と、そして力。
それは血を以って争われる、喜劇の一幕であったのだ。

メンサンの砦内に転移陣によって侵入したバルシア兵たちは、砦内に押し進みながら応戦する兵士たちと切り結んでいた。
狼煙を止めに行った魔法士たちは何者かによって殺害されたらしいが、向った第二陣は何とか消し止めることに成功している。
だがそれまでに浪費した時間の持つ意味は大きい。これは演習軍に異変が伝わったと思っていた方がいいだろう。
バルシアの指揮官は「急げ! 押し込め!」と兵を叱咤しながら剣を取る。
魔法士がいないメンサンの軍は、相手方の魔法を防げないこともあって次第に敗走を余儀なくされていった。
やがて彼らは兵士たちの家族がいる居住区間にまで追い込まれる。
「退くな! これ以上は無理だ! 持ちこたえろ!」
今いる場所を突破されれば、被害は何ら戦う力のない女子供にまで波及してしまう。
刃こぼれし始めた剣を握りながら、メンサンの武官は部下たちを奮い立たせた。振り返れば扉の影には少女を抱いて震えている母親の姿が見える。
本来ならば、敵に踏み込まれる前に非戦闘員は魔法で逃がすことが出来たのだ。だが今となってはそれも出来ない。
射掛けられる近矢を盾で防ぎながら、彼らはただ外に出ている演習部隊が一刻も早く援軍として戻ってくることを願った。
盾の隙間を縫って、一本の矢が武官の足先を掠めていく。彼はひやりとして剣を握る手に力を込めた。
だがその時、不意に世界から音がなくなる。
「……何だ?」
男が顔を上げるまでには少しの時間を要した。それくらい、唐突に敵の気配がなくなったのだ。
彼は用心しながら、それでも状況を確かめる為に盾の向こうを見やる。そして、呆然自失した。
「……何でだ……」
確かについ先ほどまで廊下に押し寄せて来ていたバルシアの兵たち。
その姿が一人残らず何処にも見えないことに、防戦していた彼らはまるで今まで悪夢でも見ていたような気分になったのだった。

「そろそろ潮時か」
城壁の上から訓練場を見下ろしてティナーシャは呟く。隣に控える男が頭を下げた。
「ミラード将軍も到着したようです。後は……」
「バルシアの転移封じとここの城門破りか。門は壊さない方がいいのか?」
「どちらでも構わないと仰っていました。将軍が入れさえすればそれでいいと」
彼女は、訓練場にひしめきあうバルシア兵たちを見て笑いもせず頷く。
これで、全て準備は整ったのだ。
用意された戦場。あつらえむきの舞台。その上で人は勝利と死を賭けて踊る。
踊らされていることに気づくか気づかぬかは人の器量次第だ。そしてバルシアの兵たちにそれは到底望めないだろう。
強大な力を以って僅かに干渉した女は、隣の男を見ぬまま追い払うように手を振った。
「分かった。バルシア兵は少々間引いてやろう。お前は報告に帰れ」
言い捨てると女は止める間もなく城壁から内側へと飛び降りる。彼女に怪我をさせないよう主から命じられていた男は顔色を変えた。
彼は慌てて女を呼びかけて、だがかろうじてそれを飲み込む。
おそらく、そのような心配は無用なのだ。
建物の中に攻め込んでいた兵全てを強制的に訓練場へと転移させた女。その力がどれ程のものかは計り知れない。
彼女は死なないのだろう。むしろ、無傷で戻ってくるに違いない。
その存在の鮮烈さにこそ主は魅せられ、そして彼女を傍に置こうとしているのだから。
「あれが寵姫となるか……。恐ろしいことだ」
男の嘆息に答える者はいない。
ただ彼が振り返ると、転移門を使って到着したミラードが少数の兵を率いて門に押し寄せる、その光景が見えただけであった。

僅か三百人の兵を転移で伴い砦に戻ったミラードは、明らかに平時とは違う空気に表情を険しくした。
閉ざされた門の向こうから、鎧や剣のなる金属音が微かに聞こえる。見張りの兵士もいないその状況を見た誰もが異常事態を悟った。
「門を破れ!」
将軍の命はそれだけであったが、遂行し得るかどうか兵たちには希望が持てない。
自分たちが防御にあたっている場合なら、およそ三百人程度には破れない自信がある砦なのだ。
内部の様子は分からなかったが、下手をしたら残りの演習軍が駆けつけてくるまでの間、このままここで立ち往生するということもありえるだろう。
しかしそうは言っても何もせずに立ち往生するわけにはいかない。命令を受けた兵士たちは城壁の上を警戒しながらも門に駆け寄ろうとする。
晴天の下、雷光が走ったのはその時だった。
空を照らす白い光に彼らは一瞬顔を上げる。
ほんの一、二秒の間。だが、それが見えた時にはもう変化は起こっていた。
皆が上空に気を取られたと同時に、轟音が沸き起こる。
唖然とした彼らが視線を移した視界の先、目の前の城壁に亀裂が走った。
まるで石を鉄槌でかち割ったかのように高い壁が音を立てて崩れ始める。
巨大な壁の破片が落ちてくるのを兵士たちは慌てて避けた。砂煙が辺りに立ち込める。
あまりのことに誰も何も言えない。中には胸の中で神に祈る者もあった。
だが、驚愕がひとしきり彼らの中を駆け巡った後に、メンサンの兵たちは崩れた壁を見て息を飲む。
「割られた」城壁の向こう、侵入できるようになった隙間の向こうには、同じように驚愕の目で他国の兵たちが彼らを見つめていたのだ。

「あれ。門を壊すつもりだったんですがね。ちょっとずれた。
 じゃあ次は……中にいる人たちにも反撃してもらいましょうか」
誰も聞くことのない声が空に消える。
それがかつて最強と謳われた女のものであると、知る者はいない。

ミラードは確かに軍人としては切れ者であった。
僅かな隙間から見える敵兵を認めて素早く状況を悟ると、早馬を出して後続への連絡を取り始めると同時に、狭い隙間を利用して敵を迎撃するよう命じる。
一方バルシア兵たちは突然の転移と城壁の崩壊を受けて、大きな動揺から自由になれないままであった。
それに加えて混乱した指揮系統を立て直す間もなく、城壁の隙間からミラードが率いる軍が攻撃をしかけてくる。
「敵を討て! 怯むな、押し返せ!」
誰のものともつかぬ叱咤がバルシア勢を打ち据えた。その声に動かされ、兵たちは慌てて城壁に向って動き始める。
訓練場から城壁の隙間に向けて、細く突出した隊列が演習から引き返してきた軍を迎え撃ち始めた。それは真上から見ればひどく奇怪な形に映ったであろう。
先ほどまでは、むしろバルシアこそが狭い通路を逆手にとって砦内部に切り込んでいたのだ。しかし、今同じことをメンサンによってやり返されている。
ティナーシャによって訓練場に詰め込まれた兵士たちのうち、判断力のあったものは再び建物内に踏み込もうと駆け出した。
しかし彼らの前には、魔法士を取り戻し、態勢を整えた駐留兵たちが立ち塞がる。
まるで最初からそうなることを仕組まれていたように、挟撃され満足に戦えないバルシア軍を二階の窓に腰掛けた女は眺めた。
彼女の美しい貌には何の感情も見られない。戦意も、敵意も、そして憐れみさえも。
ただ決まっていることをなぞるだけのように女は白い手を掲げ、そこに炎を生む。
「―――― 焼き尽くせ」
訓練場の只中に向って放り込まれた魔法。
それは、戦闘をより凄惨な混迷の中へと導く嚆矢の一撃だった。

城壁が呆気なく崩れ去った時、ラジュはそこに彼女が関わっていることを確信した。
誰にでも出来ることではない。むしろ、誰にも出来ない。ごく一部の異様な力を持つ魔法士を除いては。
「……ティナーシャ」
何をしているのか、何処にいるのか。剣戟の音に焦りが生まれそうになる。
ラジュは、徐々に敵兵を押し込めながら城壁内へと侵入していく味方の先陣に滑り込んだ。敵の攻撃を避けて姿勢を低く保ちながら剣を切り上げる。
彼の振るった切っ先は的確に敵兵の喉を掻っ切った。幼さを僅かに残す顔に赤い雫がかかる。
だが、ラジュはまったく怯みもせずそのまま奥に踏み込んだ。頭上から打ちおろされる剣を半身で避けると鎧の継ぎ目を狙って剣を突き出す。
悲鳴も罵声も、言葉のない叫びには何の意味もない。
そこに渦巻くのは何の装飾も持たない戦意と死のみだ。
血と肉と鉄がむき出しの地面を彩る上を、少年は切り進んでいく。
吹き付ける生温い血の風にふと前方を見やると、指揮官であるミラードが憎悪に満ちた目で剣を振るっていた。

ミラードは突然の事態に困惑はしたもののすぐさま意識を切り替えると、指揮官として敵兵の殲滅に集中し始めた。
彼は巧みに兵を動かし砦の敷地内に入り込みながら、自らも剣を取り最前線に立つ。
時折奥から聞こえてくる爆音は、砦に残っていた友軍が善戦しているのだと思っていた。
彼のその推察はあながち間違っているというわけでもない。
事実、一時はバルシアの勢いの前に後がなくなっていた駐留軍も、今は外に出てバルシアと互角以上に渡り合っていた。
だが、爆音を生み出しているのはメンサンの魔法士ではなく、一人の女である。
単身バルシア兵の中に降り立った彼女は、無造作に魔法を揮いながら炎の渦で周囲の兵をなぎ払っていた。
細身の剣を片手に持つ彼女に恐怖と憎悪の視線が集まる。
「女! 何者だ!」
「さぁ? 知ってどうする」
「墓碑に刻む名が必要であろう!」
「ならば名乗るのはお前の方ではないか」
怒気と共に切りかかってきた男の刃を、ティナーシャは己の剣で受けた。細い刀身の上、相手の剣を滑らせながら左手を男の頭に向ける。
圧縮された空気の弾を額に打ち込まれた男は、鼻から血を流して崩れ落ちた。あまりにも異様な死に周囲の者が絶句する。
美しい女の形をした「それ」は艶やかに笑いながら男たちを見回した。
「ほら、私ばかりに構っていると背後から斬られるぞ?」
魅入られたように彼女だけに注意を払っていた兵士たちは、その言葉に慌てて振り返る。
戦況はもはやこの時、メンサンの勝利にゆっくりと傾きつつあった。




美しい少女だった。
際立ってという程ではないが、勝気でいつも溌剌として、自然と視線が吸い寄せられる、そんな愛らしい少女だった。
宮廷や舞踏会で彼女を見かける度に彼の目は自然とその姿を追い、ついには親に頼んで彼女の知己を得た。
貴族の娘である彼女は、幼い時より婚約者がいるのだという。
それを知った時、彼は自分が落ち込んだことに気づいたが、笑って「幸せになれるといい」と返した。
彼女は婚約者の男のことを好いているらしい。彼からすれば何の取り得もない家柄だけの男の何処がいいのか理解に苦しむ。
だが、好かれている当の男はずっと彼女を避け続けている。しまいには彼女を置いて遠い辺境の城砦に行ってしまった。
久しぶりに舞踏会にて会った彼女は、少しやつれていたように思える。そしてかつてはなかった昏い光を二つの瞳に宿していた。
心配に思ってさりげなく話しかけると、彼女は薄く微笑みながら「遠くに行ってしまった男に愛人が出来たらしい」と零す。
その女が憎いと、彼女の目は叫んでいた。
―――― 顧みられない彼女が憐れだ。
だから彼は、彼女にこう答えたのだ。
「ならば私が行ってその女を遠ざけて参りましょう」と。




頭上から振り下ろされた苛烈な一撃に対し、正面から受け止める愚をティナーシャは犯さなかった。
一瞬早く後ろに跳んで剣に空を切らせる。油断なく剣を構えながら彼女は形のよい眉を寄せた。陣営としては味方である男を睨む。
「どういうつもりですか?」
「正体を現したな、妖女め。お前が敵兵を砦に招きいれたのであろう」
「直接には違います」
「言い逃れをするな!」
再び襲い掛かる剣を彼女は右に避けた。予定にはなかった面倒ごとにティナーシャは舌打をしたくなる。
魔法を使って殺すことは容易い。だが、それをしては問題があるのだ。
彼女がこの計画の裏の主要人物であるなら、目の前の男は表の主要人物である。
「ミラード将軍。貴方の役目は兵を指揮し、敵を制圧して勝利をもたらすこと。私を追うのは見当違いですよ」
「黙れ!」
話を聞く気がないらしい男の剣を三度避けてティナーシャは距離を取った。憎悪が殺気と混じりあった男を冷ややかな目で見据える。
まったく、ここまで頭が固い男だとは思っていなかった。「切れる将だ」との評判とは大分異なって見える。
大体ミラードは、彼女がバルシア兵を切り捨てているところに襲い掛かってきたのだ。
彼女がどちらの味方をしているかなどその時点で分かりそうなものなのに、剣を退こうとしないのは思い込みにすっかり目が眩んでいるのだろう。
ティナーシャは軽く結界を張りながら相対する男をねめつけた。漆黒の瞳に威圧がこもる。
「熱くなるのも大概になさい。己の役目を何だと思っているのです」
「賢しい口をきくな! ……お前を排除すると、ラディア嬢に約束したのだ」
混戦の中にあって地を這うような男の声に彼女は目を細めた。近くから肉の焦げる臭いが漂ってくる。
負傷した兵のすすり泣く声。吹きつける乾いた風。
戦闘はまだ、終わってはいない。

バルシアを押し込み混戦となった中庭で戦っていたラジュは、砂煙の向こうに女の姿を見つけて目を瞠った。
いつもの双剣ではなく細身の長剣を持った彼女は、何故かミラードと切り結んでいる。
小柄な彼女相手だというのに本気で剣を振るう将軍を見て、少年の意識は瞬間で切り替わった。目の前の敵兵を切り伏せるとその場を駆け出す。
「待て、ラジュ!」
横からかかる制止の声。だが、かかったのは声だけではなかった。男の手が伸びてきて彼の肩を掴む。ラジュはその相手を振り返った。
「隊長、止めないと」
「平気だ、放っておけ」
「どちらか死にますよ!」
稽古での手合わせではない。少なくともミラードがティナーシャを殺す気でいることは明らかであり、彼女もまたその気になれば男を殺せるだろう。
そうなる前に止めなければならない。第一彼は、ティナーシャを傷つけようとする人間をそのままにしておく気はなかった。
だが、デファスはラジュの言葉を聞いても肩を掴む手を離そうとはしない。むしろ力を込めてくる。
「行くな。それよりバルシア兵の殲滅が先だ」
「もう勝てます」
「駄目だ。終わっていない」
譲らない上官にラジュは舌打を飲み込むと肩を軽く捻った。デファスの手から逃れ出る。
しかし次の瞬間、少年は何かを感じて身を屈めた。頭のすぐ上を短剣が薙いでいく。
「行かせないって、ラジュ」
「……隊長」
反射的に後ろに跳んで間合いを取ったラジュは、愛想よく笑うデファスに息を飲んだ。
よく稽古をつけてくれた男の右手には長剣。そして左手には―――― いつの間にか短剣が握られている。
面倒くさがりやでよく部下と行動を共にする部隊長。
しかし、今ラジュの目の前にいる人間は、少なくとも今までのデファスとはまったく異なる雰囲気を纏っていた。
双剣となった上官を、驚きと共にラジュは注視する。
「何するんですか、隊長」
「頭を冷やさせてやろうって思っただけさ。行く必要はない、ラジュ。
 それより、お前、何で演習にこんなに人が来てるんだって聞いてたよな? あれ、教えてやるよ。エズル殿下の命令だ。
 バルシアを砦に侵入させるよう情報を流したのはエズル殿下なんだよ。他国からの襲撃が起きれば軍部の意見が重くなる。
 だからあの方はわざと隙を見せてバルシアを砦に引き込んだ。その上で子飼いのミラードに制圧をさせて、自分の手柄にしようとしてるのさ」
「王子が? わざと?」
「そう。そして、あの二人はどっちもエズル殿下に与する人間だ。
 何で身内同士で戦ってるのかは知らないが、どちらが死んでも問題ない。どうせやつらは今回の事件の首謀者だ。放っておけばいい」
呆気に取られるような内容。
けれど『放っておけばいい』と、その口調に何かを感じてラジュは僅かに眉を上げた。目の前の上官を見つめたまま口を開く。
「二人が死ねばもう一人の……リアス殿下が得をするからですか?」
デファスは表情を変えなかった。
ただ笑顔のまま、雰囲気だけが鋭く研がれる。
その変化にラジュは自分の推測が当たったことを感じた。目の前に立ち塞がる男を睨む。
名前しか聞いたことのない二人の王子。
互いに争っているらしきその二人の思惑が今回の襲撃に影響しているのだと知って、ラジュの貌は険を帯びた。
「隊長はリアス殿下の部下だと、そういうことですよね」
「正確には雇われ。武官ってのも中々面白かったけどな」
「本職は暗殺者ですか」
「……何で分かった?」
「似た剣を使う人間と手合わせをしたことが。彼女は暗殺者に剣を習ったと言っていました」
ティナーシャと試合をした時に感じた違和感。あれは、デファスの動きとの類似を示していたのだ。
だからこそ彼女の師が暗殺者だったと知って違和感は増した。デファスはそんなことを少しも匂わせていなかったのだから。
素性を看破された男は陰惨な微笑を浮かべる。闇の中が似合う眼光は捕食者のものと同じだった。
「ラジュ、誤解するなよ? 今回の一件は本当にエズルの仕業だ。じゃなきゃ演習の人数なんて変えられない。
 だから……リアス殿下はそれを逆手に取ってエズルを追い込もうとしているのさ。混乱に乗じてエズルの手の者を殺し、真相を暴くことでね。
 俺はまぁ、ミラードを殺すつもりだったんだが…………お前の方が余程危険に見えるよ、ラジュ」
「高く買って頂いてありがたいと、言う気はありません」
「そうか。ならリアス殿下に紹介してやるから、こっちにつかないか? お前はきっとミラードを越えるよ」
「お断りします」
ティナーシャがエズル王子に与しているというのは本当なのだろうか。
ここ一月姿を見せなかった彼女は、その間何をしていたのだろう。
だが、確かめるのは後だ。今は、他にやることがある。
「隊長、隊長は彼女を殺すつもりですね」
「あれは傾国だ。現れて一週間でエズルを籠絡した。騙されるなよ、ラジュ」
「お言葉ですが、俺の女です」
ラジュはゆっくりと剣を構える。剣先に見える男はまだ笑っていた。その笑いに緊張を覚える。
「隊長……今まで手加減してましたよね」
手合わせの最中、いつも隙を見て中断を口にしていた上官。彼が少年に「負けた」ことは一度もない。
闇の底を探るような問いに、デファスは唇を釣り上げて笑った。
「当たり前だろ、小僧」
男は双剣を構える。
それは人を殺す為に洗練された、一つの極たる姿だった。