呼ぶ

mudan tensai genkin desu -yuki

次第に魔法士が生まれなくなっていくはずの大陸。
やがては大陸から魔法自体が失われるというその事実は確かに大きな変化で、知れば驚愕する人間は数多いるだろう。
しかし、その影響をあまり受けないという者たちも、確かに広い土地のあちこちに存在している。
元々数の多くない魔法士は、優秀であれば皆、宮仕えとなることが普通であるのだ。
その為、小さな農村に住む人々などがその恩恵を得られることはほとんどない。彼らは「魔法士がいなくなるのだ」と聞いても城都の人間程には驚かないであろう。―――― だがだからと言って、彼らが魔法を必要としていないかと言えば、実際のところそうではなかった。






その村での最後の治療は、半年前の戦で腕が動かせなくなった若い男だった。
年が若く体力がある為、最後に回してくれるよう申し出ていた彼は、腕に注がれる魔法に感嘆の溜息を洩らす。
「凄いですね」
椅子に座る彼は、術者である小柄な女を見上げた。彼女は詠唱中である為か微笑みだけでそれに返す。輝くような金髪が白い袖の上にかかった。

数日前、一人の傭兵を伴って村にやって来た彼女は、どうやらかなりの力を持つ魔法士であるらしい。
何でも辺境にあるあちこちの町や村を回って、魔法治療を受けられていない病人や怪我人を治癒しているのだという。
容姿の美しさもあいまって、まるで聖女のようだと評判になっている彼女は、だが誰かが面と向かってそう言うと物悲しい顔で首を横に振ることが常であった。今もそうして礼を受け取らず去っていこうとする彼女を、寝台から起き上がった男は呼び止める。
「あの!」
「はい?」
女は細い首を傾げて振り返る。
人形のように繊細な美貌。非現実めいた雰囲気に、男は一瞬声を詰まらせた。この数日間、言おうと思っていた言葉が喉の奥で固形化する。
しかしそれでも今をおいて言う時は他にないのだ。彼は動くようになった左手を彼女へと差し伸べる。思い切って口を開いた。
「あの、もしよろしかったらこれからもこの村で―――― 」
「レア」
開いたままの扉の向こうから、男の手が彼女を招く。
彼女は途端、顔を綻ばせて声の主に走り寄った。
「戻ってたの?」
「大したことなかった。すぐ終わった」
別の村人から今朝方魔物退治を頼まれていた傭兵は、その頼まれ事をすぐに終わらせてきたらしい。連れの女の頭を撫でると、緑の目で男を見た。
手を上げたままの彼は、その一瞥で射竦められる。
若い割りに相当な場数を踏んできたらしい傭兵の青年は、僅かに目を細めて男の様子を眺めた。
「アージェ? どうしたの?」
「いや、単なる嫌がらせ」
「誰に……あ、わ、私に?」
「違います。よし、もう出発するから」
「ま、待って」
踵を返して去っていく青年を、彼女は雛のようにぱたぱたと追いかけていく。
その後姿を何も言えず見送った男は、気圧されていた自分に気付くと、改めて両手で頭を抱え溜息をついたのだった。