掃除をする

mudan tensai genkin desu -yuki

点々と多くの町や村を旅する彼らは、あまり一つところに長くいるということがない。
毎回の滞在時には宿を取ってそこに逗留するのだが、長くて二週間、それを越えることなど滅多になかった。
しかし巡りあわせとは存在するもので、 入れ替わり立ち代わり病人や怪我人に対処していた結果、気がつけば一月程になっていた、ということも稀にある。
──── 結果として非常に散らかってしまった宿の自室を、レアリアは呆然として眺めた。
寝台の上には服やら薬の袋やらが放り出されており、他にも調合布などが加わってそれらは床にまで広がっている。
帰ってきて戸口に立ったままの彼女は力なく呟いた。
「ど、どうしよう……」
「どうかしたのか?」
背後から聞こえてくる声にレアリアは飛び上がった。慌てて扉を閉めて振り返る。
後ろ手に扉を押さえたままの彼女を、アージェは怪訝そうに見下ろした。
「どうかした?」
「ど、どうもしない。自分の部屋に行ってて……」
「今、どうしようって言った」
「言ってない!」
全力で首を横に振るレアリアを、彼はじっと見つめる。
無言の視線が衝突した数秒後、アージェはおもむろに手を伸ばすと、彼女の体を軽く小脇に抱えた。
もう片方の手で扉を開けようとする青年に、レアリアは悲鳴を上げる。
「開けないで! 散らかってるの! 散らかってるの!」
「なんだ、そんなことか」
「うう……」
女皇として生きてきた二十年間、レアリアは掃除をしたことなど一度もない。
その為、旅に出るようになった彼女は片付けの要領がわからず、定期的に「元の状態に戻す」で乗り切っていた。
だが、習慣づいているわけではなく意識しての結果なので、機を逃せば散々な状態になってしまう。
恥ずかしさと情けなさで涙目になってしまった女を、アージェは笑いながら下ろした。
「たいしたことじゃないだろ。気になるなら俺が掃除しましょうか?」
「な、何言ってるの! ぜったい嫌!!!」
「俺そういうの慣れてるし気にしませんよ。妹いたし、カタリナの部屋の掃除とかしてたこともあるから」
「嫌! 絶対駄目!」
扉に張り付いて真っ赤になっている彼女は、扉を開けたら泣き出しそうな勢いである。
ぴりぴりと逆立ちそうな髪をアージェは一房手に取った。
「そこまで拒否されると、かえって気になるな……」
「どうしてそうなるの!?」
「すぐ終わりますよ。目を閉じて我慢してればいいです」
「我慢出来ないから言ってるんでしょう! 忘れなさい!」
「何が散らかってるんですか?」
「そんなの聞かないの!」
髪をぴんぴんと引っ張られたレアリアは、けれど扉の前からどくまいと首を振る。
──── その様子を面白がられて散々苛められた彼女は、数分後ようやく解放されると掃除はマメにすることを誓ったのだった。



「も、もう綺麗になったから……」
「そりゃよかった。掃除の手が要るようだったらいつでも言ってください」
「もう散らかさないから。……そんなに掃除が好きなの?」
「レアの嫌がる顔を見たいだけ」
「…………」