自習中

禁転載

彼は真面目な人間であると、レアリアは思う。
城を抜け出して彼女が遊びに来た宿屋の一室で、読み書きの勉強をしている少年。
その様子を彼女は隣からじっと見つめていた。静かな室内にペンの走る音だけが響く。

教師役であるカタリナは今は席を外している。数分前に突然「おなかすいた」と言い出し、食堂に下りていってしまったのだ。
その間残されたアージェは真面目に書き取りを続けていたが、その横顔は「またか」と言っているようである。
もっともレアリアは彼のそのような感情には気付かず、ただ真剣な少年を真剣に見ているだけなのだが。
沈黙が当然のように続く時間。
アージェはしばらくしてペンを止めると、レアリアを見た。呆れた顔で彼女に聞く。
「あのさ、そうしてて面白い?」
「え? 面白く……はないけど」
「じゃあ何で見てるの」
「え、え。あ、凄いなって思って」
「何が」
「アージェが」
いまいち要領を得ないやり取り。少年は頬杖をついて彼女を見やる。
その緑の瞳にレアリアはまたじっと見入って、彼に嫌な顔をされた。
「大体これくらいのこと、レアは普通に出来るんだろ? 何が凄いんだよ」
「あ、真面目に勉強してるところがいいなって……おかしい?」
「……レアも昔はこういう勉強したんだろ」
「してない」
きょとんとして返した言葉には嘘偽りはない。
彼女は、勉強という勉強をする必要がなかったのだ。
だがアージェはそれを「元々頭のいい人間の言うこと」ととったらしい。「俺はやらないと駄目だからやってるの」と再びペンを取った。
レアリアは彼の様子をまたじっと見て、だが不意に立ち上がる。

アージェはそれを、退屈だから帰るのかと思ってあまり気にしなかった。
だが別れの言葉を口にしようとした彼は、彼女に向き直った瞬間、額に口付けを落とされぎょっとした。反射的に椅子を倒して跳び下がる。
「な、何?」
「え? 友達だから……」
美しい少女は困ったように、だが嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見て何も言えなくなってしまった少年は、紅くなる顔を隠して放り投げたペンを拾ったのだった。