休日

禁転載

わたしはコタツが大好きだ。
大好きなのだが、コタツが出されている時期はいつもあまり長くない。
その為、ヨーコがお休みということでコタツ布団を出してきた今日、ちょっとハイテンションになってしまったのだ。
具体的に言うと部屋中をずだだだと走り回り、カーテンに駆け上った。
駆け上った結果、なんとカーテンにはわたしの爪でラインが引かれてしまったのだ! 怒られた。
うーん失敗失敗。ヨーコがぷんぷんしてる。でもすぐに忘れてしまうのがわたしだ。
一応ヨーコの手前、しゅんとはしてみる。しゅんとしてコタツにもぐって頭だけ出してみた。
「なによ、ソラちゃん。反省してるの?」
してるしてるー。
「次やったらミカンの刑だからね」
ひいいいいいいいい! なんという恐ろしい刑を!
猫はミカンが苦手なのだぞ! そんな猫の鼻先にミカンの皮を押し付けるというこの拷問! ヨーコやめて本当やめて。
両手で耳を押さえて伏せるしかない。ミカンガードだ。
そうこうしているうちに、ヨーコがコタツに入ってくる。
「はー、餃子食べたいなー」
言いながらコタツの上のミカンを剥き出すヨーコは、ジャージにどてらというもっさりした格好だ。
勿論今日はお休みだから、化粧もしていないし髪も後ろで一つに結んでいるだけ。
ヨーコのこういうおうちスタイルを知っているのは、わたしと毛玉だけだ。
セートサンがいる時は当然、ヨーコは自分の親が来ている時もしゅなっとした格好しているからな。
しゅなっ!
「……何その擬態語。なんとなく分かるけどさ」
「わかるならば聞くな」
お前は本当細かいことにうるさいな! 大人しくコタツの中で寝てればいいのに!
わたしは、明かりの入っていないコタツの中で丸くなっている毛玉へと、尻尾を放つ。えい。
しかし毛玉は、大きな前足でわたしの尻尾を払った。
「君は本当、いつまで経っても子供だよね」
「なんだと! わたしは一人前だぞ!」
「一人前の猫はカーテンを裂いたりしないよ」
「カーテンは犠牲になったのだ……」
「なんのだよ」
毛玉、うるさい。

おやすみの日は幸せだ。
ヨーコはずっと居間にいるし、たまにわたしと遊んでくれる。
あー幸せ幸せ。ずっとこうだったら世界セイフクしなくてもいいかな! 
と思っていたら、ぴんぽーんとチャイムがなった。誰だこんな時に。
面倒そうにインターホンへと向かったヨーコは、通話ボタンを押して……
「あ……はい、はい……しょ、少々お待ちください」
と言うと、青ざめた顔で振り返った。
「ちょっ……どうしよう! 斉藤さんが来ちゃった!」
本当空気読まないな、あのマッチョ。

ヨーコはばたばたと着替えて髪を梳かす。
大変そうだな、あの筋肉のせいで。あの筋肉、どうせまたタンクトップなんだろう。
わたしが代わりに出てもいいのだが、わたしでは玄関のドアを開けられないのが難点だ。
せめて斉藤への尖兵として戦おう。ということで、うろたえながら玄関に向かうヨーコの先を、ぴんと立てた尻尾で行進する。
よし、ではヨーコ、玄関を開けてくれ。
「―――― あ、お休みのところ、すみません」
がぶ。
「あ、ソラちゃん、こんにちは。こないだはどうも」
どうして微塵も動じないんだ、お前は。
というか脛の筋肉が硬すぎて歯が通らなかった。服には穴が空いたが。……って服?
なんだと!? 筋肉が服を着てるぞ!
どうしたんだ筋肉! ついにおかしくなったか!?
服を着てると言ってもジャージにポロシャツだが、ワキが隠れてるとかありえない!
……そんな風に愕然としていたわたしは、ヨーコが斉藤に謝りながら抱き上げてくれたことに気づかなかった。
すっぴんのヨーコはわたしを顔の前に抱きながら、そっと呟く。
「……あとでミカンの刑」
えええええええ!? どうしてなのだ! わたしが何をした!?
その間に斉藤は、ヨーコに菓子折りと何かの袋を渡している。
最後に「すみませんでした」と謝って帰って行った斉藤に、わたしとヨーコはぽかんとしてしまった。
玄関が閉まると、ヨーコはわたしの目を覗き込む。
「ソラちゃんにすみません、って……ソラちゃん何かあったの?」
胸板に拉致された。―――― あれ、そのせいか?
菓子折りとは別に渡されたビニール袋を、ヨーコは覗き込む。
「……ゴールド缶」
なんと! 斉藤もいいところあるな! 今日は幸せな日だ!
あ、でもミカンの刑があったんだった……。
まぁいい。後で毛玉にもおすそ分けしてやろう。ついでにミカンは毛玉の毛になすりつけよう。
あとヨーコ、そんなに暗くならなくてもいいと思うぞ。ヨーコは眉毛薄くても美人だからな! 急いで履いたスカートが前後逆でも美人だからな!
だからミカンの刑ちょっとにして欲しいのだ。