陽溜りダイナ

禁転載

よし! 今日は待ちに待ったダイナ嬢との待ち合わせの日だ!
この日の為に俺はうちのむかつく魔女に散々きっついことを言われてきた。
「何で貴方はそうすぐ物陰に隠れたがるんですか」とか呆れたように言うな! 十年もやって身に染み付いてんだ!
何かこうダイナ嬢の気をどう引くかを知りたかったのに、普通の人間として不自然じゃない動作からやらされた気がする。
おかけで何を話したらいいのかはさっぱりだ。
でも出かけにティナが何か書いた紙をくれたからな。「あらかじめ読んどいてください」って。珍しくいいとこある。
途中で意味なく人気のない道を通って遠回りしてしまったせいか、あらかじめ読む暇はなかったが、こっそり見ればいいだろ。多分。

城都の中心にある噴水は、同じように待ち合わせをする人間で溢れかえっていた。
うっ……日当たりいいのは歓迎だが、人が多すぎて落ち着かない!
こんな中普通に立ってていいんですか、俺。
城でも武官が集められて話をする時とか、緊張しすぎていつも逃げ出したくなるんですけど。
このままここに十五分も立ってたら脂汗が浮いてくるんじゃないかと思ったけど、ダイナ嬢は幸いすぐに現れた。
よ、よかった。すっぽかされたらどうしようかとちょっとだけ心配してた。

「こんにちは、いいお天気ですね」
って何てさわやかな挨拶なんだ! 浄化されて死にそう。
俺は笑顔で手を上げて挨拶を返す。
「ここここここんにちは」
………………うん、突っ込まないで。頼むから。

駄目だ。油断しすぎてた。心構えをしないとダイナ嬢の笑顔だけで不審者になってしまう。
約束を取り付ける時も、覆面を被ってたりかなりの不審者だったのに何で受けてくれたんだろう!
「今日は覆面は被ってらっしゃらないんですね。よくお似合いでしたのに」
「…………いつも被っているわけでは」
というか覆面似合ってるって何、俺! 泣いていい?
けど彼女は純粋な好奇心での発言らしく、「あら、そうなのですか」と残念そうに首を傾げる。覆面被ってこなくてすいません!

だがここで怯んではいけない。何とか会話を弾ませなければ。
俺はこっそりティナにもらった紙を後ろ手に見た。
「えーと、今日は……ネギと林檎を買ってきてください、って何だよこれは!!」
買い物メモなんか渡すんじゃねーよ! 自分で買って来い魔女め! しかも俺、ネギ嫌いだっつってんだろ!
とんだ罠に引っかかった。もう駄目だ。
ダイナ嬢はにっこりと笑う。うう、デート終了ですか?
「ネギと林檎ですか? なら行きましょうか」
え、行くんですか。よ、よかった?
ふわふわとした足取りで歩き出すダイナ嬢の半歩後ろを歩きながら、俺は改めてやつの書いた紙を見た。
―――― よく見ると、途中に線が引いてあって「ここからデート対策」って書いてある。
うん。あらかじめ読まなかった俺が悪いんだよね。これ。
帰って文句言ったら魔法で吹っ飛ばされるところだった。

こうして記念すべき初デートは、ネギを買うところから始まったのです。
ダイナ嬢に笑顔でネギを渡されては嫌いだからって断れない。まさかあの魔女めここまで計算してたのか?
……でも買い物袋からネギをはみ出させてデートしてる俺って何なんだろう。

その後、俺たちは二人で食事することになった。今、城都では人気の店らしい。
文官の友人……というか何かよく顔を付き合わせる変態が教えてくれたのだ。
薄暗い店内は妙に居心地がよい。生き返る気持ちです!
俺は難解なメニューから適当に選んで頼む。ダイナ嬢は子羊の脳料理とか頼んでたけど……美味しいんですか、それ。
「それにしてもルーさんからお誘い頂けるなんて嬉しいですわ」
「お、俺もです!」
えーと、ルーって本名じゃないんですが、何故いきなり愛称で呼ばれてるんだろう。
もしやあの変態文官が何か吹き込んだのか。それとも暴力王女か。心当たりが多すぎて分からない。
でもダイナ嬢に呼ばれると何と言うか、天にも昇る気持ちですよ!
「いつも柱の影とかでじっとして私を見てらしたでしょう? ずっと気になってましたの」
それは気になりマスヨネ。当のお相手から言われるとちょっとぐさっときました。自分の不審者ぷりが。
「その上、この間は覆面でしたから……。もうこれはご一緒するしかない、と思いまして」
あの、自分で言うのもなんですが覆面に高評価はやめた方がいいです。そういうの被ってるの暗殺者とかですから。

これはいかん! 何とか印象を上向きに修正せねば。
今のところ垂直に下向きな印象が何故かダイナ嬢には面白いらしいが、男としてそれはどうかと思う!
俺はテーブルの下に例のメモを潜ませた。
「俺の方こそ、ええと……今日はこんな犬畜生にお付き合い頂けて這いつくばって涙を流すほど感激です! …………です」
―――― あいつ絶対俺を陥れようとしてるだろ! 
すぐ後ろに「なんて言ったら面白いけど、ドン引きされるんで言っちゃ駄目ですよ」って書いてあったがもう知らん!
帰ったら魔法使われる前に仕留めてやるわ!

だけどダイナ嬢はにこにこと笑って……
「思った通りルーさんは面白い方でいらっしゃるわ。城で試合をされている時とかとはまた違って見えます。
 どちらもとても、素敵ですわ」
と言ってくれたのだ。女神様ですか?
彼女はその後も散々に重なる俺の失態をみんな笑顔で喜んでくれて。
別れ際には「またご一緒してくださいね」と手を振ってくれた。う、嬉しい。
本当は手くらい繋ぎたいなって思ってたけど、もうどうでもいい! これであと五年くらいは生きていける!

嫌いなはずのネギを抱きしめて帰った俺を待っていたのは、お茶飲みながら本読んでる魔女で。
やつは俺の顔も見ずに「振られました?」と聞いてきたからネギぶつけてやった。
でもまぁ…………助かったよ、ありがとな。