腹黒の計算

禁転載

「じゃ、よろしく」
軽い挨拶だけ残して、奴は扉を閉めた。暗い地下室に残されたのは俺だけ。
俺は埃だらけの倉庫を見回す。
「…………まじで?」
俺一人でこの広い倉庫を整理すんの? すげー物多そうなのに?
誰か嘘だと言ってくれえええええ! 俺、掃除苦手なんだよ!

そもそもこんな事態に何故巻き込まれたのかというと、その理由は数日前に遡る!
いえ、理由ってほどでもないんですけどね。俺がちょっと走ってて城の備品を破壊しちゃっただけで。
そこをヴァイロに見つかって、誤魔化してやる代わりに次の休みの日に屋敷の地下倉庫掃除しろと……。
っていうか暴力王女に怒られるよりはマシだけど、この地下倉庫掃除も結構やばそう!
なんか壁が一部人の形に変色してるのは俺の目の錯覚だよね。そういうことにして欲しい。
「……ティナ助けて」
言ってはみたものの、あいつは家で寝てるはずだ。
うう。どうすればいいの。
あーああーやんなっちゃうーーーー!

とりあえず泣いても叫んでも終わらないので、倉庫整理することにしました。はい。
こういう時は似た類のものを同じ場所に集めればいいはず。ティナとかそうしてたし。
なので、箱は箱で集めよう。箱類大集合だ。
俺は広い倉庫の中を見回すと、元から箱が集まってる角に目をつけた。そこへ他の場所から散っている箱を集めていく。
木箱も鉄箱もみんな動かして……って重い! 何で人間大の鉄箱とかあるんだよ! これ一人で持てとか阿呆か。
問題の鉄箱が棺と同じくらいの大きさとか、蓋に等身大の人間の彫刻がされてるとかそういうことは置いておく。
というかあちこち置いときたいことばっかだ。明らかに血痕だったものがこびりついてる壁掛けとか。さっさと捨てろ。
俺は苦労して大体の箱を積み上げると、次に多そうなものを見回して探した。えーと、置物かな。
さっさとやってさっさと終わらせるぞー。

よーし、全部で十三個かな。割った置物。わざとじゃない。わざとじゃないんだ。
戻ってきたヴァイロは破片を集めた十三個の山を見ていくと、頷いて手元の書類に何かを書きこむ。
「呪いの甕が二つ、死を呼ぶ人形が一つか。まずまずだね」
「ちょっと待て」
今何っつった、お前! 俺の仕事は倉庫整理じゃなかったの!?
知らないうちにすっげ危ない橋渡らされてた気がする!
当然の権利として俺は説明を求めるぞ! そして返答によっては断固抗議する!
ヴァイロは綺麗な顔にむかつく笑顔を浮かべて俺を見た。
「何、君ってそういう怪しげな話信じてるの? 武官のくせに?」
「信じてないならお前が割れ」

この国の宮仕えは世襲になってるところが半分、普通の試験採用が半分なんだけど、ヴァイロは親も文官だったらしい。
代々宮仕えの家系って奴だそうだ。と聞いても俺にはそれがどんな感じなのかいまいち想像できないんだけど。
そんな話題になると、当の本人は自分の立場についてしれっと言う。
「世襲って言うほど強固なものは何もないよ。力不足と見られれば切り捨てられるしね」
「それと俺に呪いの甕割らせたこととどういう関係があるわけ」
「ない。面白そうだったから」
「甕ぶつけていいか?」
性格ひん曲がって床に突き刺さってるんじゃないか、こいつ。
面倒そうな家に生まれると人間こんなめんどくなっちゃうわけ?
ヴァイロは一通り倉庫の中を見て回ると、何やらまた書類に書きこんでた。最後に俺へと確認する。
「何かおかしなものはなかったかい?」
「全部おかしかった」
「なるほど。魔法具なんかあったら面白かったんだけど。君の家の子は持ってないの?」
「あいつは―――― 」

ってえええええええええええええええ!
うっかり話しそうになっちゃった! 何これ! ひっかけ!?
っていうか、俺ひっかかった? ひっかかったの? ねえ!

おそるおそるヴァイロを見ると、こいつ笑ってやがった。
いつもの裏に何かあるぞーって笑顔で。やばい。どうしよう。
「やっぱりあの子、魔法士なんだ」
「ぐえっぐえぐえっ」
「カエルの鳴き真似しても誤魔化されないよ」
いや本当何で。俺、こいつにティナの話した覚えないんだけど。
額から脂汗流してると、ヴァイロは女官に騒がれそうな笑顔になった。
「一応僕も独自に情報収集はしてるからね。君の家にいる子のことも調べたよ。
 顔立ちが目立つからすぐ他国での目撃証言が取れた」
「あー……」
あいつ無駄に綺麗な顔してるもんな。一度見たら忘れられない系。もうずっと猫でいろ。

俺はヴァイロの笑顔を見ながら、隠し持ってる短剣に意識を走らせる。
ってこういうことあんましたくないんだけどな。こいつって脅して言うこと聞く人間じゃないし。
こりゃもうこの場はしらばっくれて、家に帰ってからティナ逃がすしかないか。
宮仕えもおしまいだけど仕方ない。
あー……ダイナ嬢と一度くらい手繋ぎたかったな……。

一応、武器を意識しながらも俺が覚悟を決めてると、ヴァイロは呆れ顔になった。俺が物を壊した時よりもずっと冷ややかに言い放つ。
「何諦めた顔してるんだい。君は思い切りがよすぎるね。僕に裸踊りしながら懇願とかしないのかい?」
「誰にでもどんな状況でもそんなことはしないわ!」
逆にそんなことされて見逃す気になれるのか、お前は。どういう判断基準だ。
とりあえず何考えてるのか全然分からないぞ。殴ってもいいのか。
「暴力に訴えるのはやめて欲しいね」
「読心術か!」
「顔に出すぎだよ、君。彼女のことは他に洩らすつもりはないから安心すればいい」
「え」
そりゃ俺にはありがたいけどまた何で。
この国じゃ魔法士って宗教的に存在しちゃいけない人種なんじゃないのか。
おそるおそる理由を聞いてみると、ヴァイロはにやりと笑う。
「体面上公言はしていないけど、僕自身は無信仰だからね。利用出来る要素は多い方がいいと思ってるだけだ」
「利用って」
「この国は魔法士を排除してる。それが軍事面でどれほど痛手か、別の国から来た君なら分かるだろう?」
「……確かに」
魔法士がいないって戦いに関しちゃ守りにも攻めにも致命的なんだよな。
それだけじゃなくて病気や怪我の治療なんかにも影響が出てくる。
もっとも魔法士がいる国でも平民なんかはなかなかその恩恵にあずかれなかったりするんだけれど。
「ってわけで。何か面倒ごとがあったら僕は君に仕事を振るから」
―――― ものによってはティナに協力を頼めと、そういうことか。
あー確かにそれが妥協点なのかも。今だってやばそうな仕事にあいつの手を借りることはあるし。
ティナに相談すればヴァイロの記憶を消したりしそうだけど、それもあんまなあ。
俺の周りの奴らは穏便って言葉を知らない人間ばっかでほんと困る。
だから板ばさみになった俺がやたら胃の痛い思いすんだけど……。
「分かった。じゃあそれで頼むわ」
「いいよ。もっとも君に最初から拒否権なんてないけどね。君が壊した備品、自費で補填してるの僕だし」
「ほんっと、すみません!」
頭が上がらないとはまさにこのこと! 自分のことだけでも胃が痛い!



家に帰ったら起きてきたティナが何も言わずに昼飯だしてくれた。
相変わらず寝起きは機嫌悪そうだ。何も言えんし聞けん。
まぁ聞いても答えてくれなかったりするんだけどな。

『先代王が死んだのは、魔女のせいだって言ったら君は信じるかな』

信じる信じない以前に、どうでもいい。
魔女が怖いなんてことはよく知ってるからな。