水桶に沈む のおまけ

禁転載

ずぶ濡れになった豹は、恨みがましい目で主人の男を見上げた。
血と埃を水桶で洗い流してもらったリグ。しかし彼女は決してそれを歓迎していたわけではない。
むしろ濡れるのを嫌がって怒られた結果のことなのだ。
ルースは水気をぴしぴし弾く尻尾を呆れたように見やった。
「今拭いてやるから。待ってろ」
項垂れて寄ってくる豹の体を、男はぞんざいに白い布で拭った。水滴の溜まる目の上を拭うとリグは目を閉じてきゅーと鳴く。
その様があまりにも情けなく見えて、ルースは思わず噴出した。
「なんだ、それ。面白いな」
「…………」
肩を震わせて笑う主人を、黒豹はじっとりとした目で睨む。
勿論今の彼女は文句を言うことなど出来ない。だかそれは、文句を考えていないというわけではないのだ。
笑い続けるルースをねめつけていたリグは、不意に地面を蹴ると男の肩に頭突きした。体勢を崩して座り込むルースの上に乗ってくる。
そのままぐいぐいと肩を押してきて、最後には獲物を踏むように仰向けの彼を押さえつけた豹を、男は笑いながら見上げた。
「怒ったのか?」
返事の代わりに濡れた頭が顔にこすり付けられる。
子供のするような仕返しにルースはまた笑声を上げた。手を伸ばして豹の頭を撫でる。
「そういうことは女の姿の時にしてくれ」
夜には美しい女の姿に変じる恋人。シェライーデの名を彼は小さく呼んだ。
しかしそれに応えたものは、口元を舐めてくるざらざらとした舌だけで―――― 黒豹は結局水気をたっぷり男の服に含ませると、尻尾を揺らしてその場から悠々と立ち去ったのである。

背中が泥だらけになったルースは、その後自分が風呂に入らざるを得なくなった。